コンビニ最大手「セブン-イレブン」の店舗でアルバイトをしていた30代の男性店員が、店内で雑誌などを立ち読みした客の様子を無断撮影し、その画像をツイッターに投稿したとして、物議をかもした。男性は投稿を認めて、アルバイトをやめたという。
報道によると、男性は約4年前から、神奈川県内のフランチャイズ店舗に勤務。1年半くらい前から、客の立ち読み姿や、客の運転免許証とみられる画像などを無断撮影したうえで、「デブの分際で浅ましい」「雑誌も買えない貧乏人は来るな」などのコメントとともにツイッターに投稿していたという。
今回のように客の写真を勝手に撮影し、不適切なコメントを付けてツイッターに投稿することは法的に問題ないのだろうか。インターネット問題にくわしい石井邦尚弁護士に聞いた。
●本人と特定できない場合は損害賠償の対象とならない
「実際のツイッターの投稿などは確認していないので、一般論として説明しますが、今回のようなケースでは、名誉毀損や肖像権侵害、プライバシー侵害などによる損害賠償が問題となります」
石井弁護士はこう切り出した。それぞれ、どのような場合に損害賠償が認められるのだろうか。
「いずれについても、写真やコメントなどから本人が特定できることが前提です。特定できない場合、損害賠償の対象とはなりません。
また、『どの程度なら本人を特定できると評価されるのか』ということも、大きな争点となり得るのですが、ここでは特定できる場合について説明します」
●名誉毀損には例外がある
まず、名誉毀損は、どんな場合に損害賠償が認められるのだろうか。
「名誉毀損については、刑法上の犯罪として刑事罰が課されることもありますが、今回は民事上の責任について述べます。
名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させる行為で、民法上の『不法行為』として損害賠償等の対象となります。謝罪広告の請求が認められることもあります。
もっとも、『表現の自由』の問題もあるので、以下のような場合は、たとえ社会的評価を低下させる行為であっても、損害賠償等の対象とはならないとされています。
何らかの事実を摘示して社会的評価を低下させる行為については、投稿や記事などが
(1)公共の利害に関する事実にかかわる
(2)もっぱら公益を図る目的に出たもの
(3)真実であるか、あるいは、真実と信じたことにつき相当な理由がある
という要件を満たす場合、損害賠償の対象になりません。
また、意見や論評を述べることで、社会的評価を低下させる行為については、
(1)と(2)が事実の摘示による場合とおおむね同様である
(3)前提としている事実が主要な部分について真実であることの証明がある
(4)人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない
という場合、損害賠償の対象にはならないとされています」
少しむずかしいが、今回のようなケースで考えるとどうなるのだろうか。
「(1)公共の利害と(2)公益目的に疑問があります。表現によっては、(4)論評の域を逸脱した人身攻撃と評価されることもあり得ます。
なお、社会的評価を低下させる行為とはいえない(=名誉毀損とはならない)場合でも、社会通念上許される限度を超える侮辱行為がなされたような場合、名誉感情を侵害したとして、民法上の不法行為として損害賠償の対象となることもあります」
●個々の具体的な事情に応じて判断される
そのほかについては、どうだろうか。
「社会的評価を低下させるかどうかにかかわらず、プライバシー権侵害や肖像権侵害も問題となりえるでしょう。
プライバシーとして保護されるのは、個人に関する情報のうち、一般人を基準として、通常は他人に知られたくないと思うようなものです。
ただ、そのような情報であっても、(a)ある事実を公表されないという利益と(b)その事実を公表する理由を比較衡量します。そして、(a)が(b)を上回る場合、民法上の不法行為として損害賠償等の対象となるとされています」
では、肖像権については、どうだろうか。
「肖像権は、自分の肖像、つまり容姿をみだりに他人に撮影されたり、使用されたりしない権利です。肖像権を侵害する行為も、民法上の不法行為として損害賠償の対象となります。
ただし、肖像権についても、『表現の自由』などとの関係で、公共の利害に関する事柄で、公益を図る目的でなされた場合、肖像権侵害とはならないとされています」
このように述べたうえで、石井弁護士は次のように注意喚起していた。
「名誉毀損や名誉感情侵害、プライバシー権侵害、肖像権侵害・・・いずれについても、個々の投稿について、具体的な事情を検討しないと判断できません。しかし、安易な投稿は、さまざまな問題を引き起こし得るということに注意が必要です」