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「遠隔操作事件の真犯人」のメール閲覧した記者 「不正アクセス禁止法」に触れる?
どういう条件がそろうと「不正アクセス禁止法」違反となるのだろうか

「遠隔操作事件の真犯人」のメール閲覧した記者 「不正アクセス禁止法」に触れる?

パソコン遠隔操作事件を取材していた共同通信の記者が、「真犯人」を名乗る人物の利用していたメールサーバーにアクセスして、メールの記録などを閲覧していたことが発覚し、波紋を呼んでいる。

報道によると、共同通信の社会部の複数の記者は、昨年10月から11月にかけて、真犯人を名乗る人物が報道機関などへ犯行声明を送る際に利用したメールサーバーに対して、推測したパスワードを使い数回にわたってアクセス。記者らは、メールの送受信履歴などを閲覧したという。

共同通信は、「真犯人に近づく目的だったが、取材上、行き過ぎがあった」とコメントしているが、このような行為は、「不正アクセス禁止法」に触れる可能性があるという。では、どういう条件がそろうと、「不正アクセス禁止法」違反となるのだろうか。西田広一弁護士に聞いた。

●「不正アクセス」とは、どんな行為なのか?

まず、そもそも、法律で禁止された「不正アクセス」とは、どのような行為をさすのだろうか。西田弁護士は次のように説明する。

「不正アクセス禁止法における『不正アクセス行為』とは、『アクセス制御機能による特定電子計算機の特定利用を免れて、その制限されている特定利用をできる状態にさせる行為』のことです」

法律上の表現なので難しい言葉となっているが、わかりやすくいうと、アクセス制限がされたコンピュータの制限をかいくぐってアクセスできるようにすること、といえる。このような不正アクセス行為には、次のようなものがあるという。

「1つ目は、『なりすまし』です。インターネットを通じて一定のサービスを受ける場合に、他人の識別符号を入力することでアクセス制限機能による利用制限を免れて、当該サービスを利用できる状態にすること、です(不正アクセス禁止法2条4項1号)。

2つ目は、『セキュリティ・ホール攻撃』です。これは、インターネット回線を通じて、アクセス制限機能を有するセキュリティ・ホールに対し、特殊なデータ入力によって、その制御機能を回避してシステムに侵入する行為、をさします(同項2号・3号)」

また、不正アクセスを助長する行為も禁じられている。西田弁護士は次のように付け加える。

「不正アクセス禁止法では、『業務その他正当な理由がないのに、他人のID・パスワードを、正当な利用権者以外の者に提供する行為』を禁じています(第5条)」

●共同通信記者の行為は「なりすまし行為」にあたる

では、今回の共同通信の記者のケースは「不正アクセス行為」にあたるのだろうか。

「今回のケースでは、記者は、パスワードなどによりアクセス制限をしていたサーバーに対して、推測したパスワードを入力してアクセス制限を免れてサービスを利用しうる状態にして、メールの送受信履歴などを閲覧したということですから、1つ目の『なりすまし行為』に該当します」

つまり、不正アクセス行為にあたるというわけだ。ただ、今回は報道目的でのアクセスだったと考えられる。報道目的の場合は、「報道の自由」などとの関係で、例外扱いされるのだろうか。この点について、西田弁護士は次のように答える。

「記者の取材活動と公務員の守秘義務が問題となった西山事件で、最高裁判決(昭和53年5月31日)は、国政に関する取材行為について、それが真に報道の目的から出たもので、手段・方法が相当である限り、正当な業務行為として違法性を欠くとしています。

一方で、取材の手段・方法が刑罰法令に触れる場合のほか、法秩序全体の精神から社会観念上是認できない態様の場合には、正当な取材活動の範囲を逸脱し、違法性を帯びるとしました。

この基準からすると、本件においては、目的は正当であるものの、手段・方法が刑罰法令に触れる場合ですので、正当な取材活動の範囲を逸脱するものとして、違法性を帯びているものと考えます」

つまり、今回のケースの場合は、報道目的だからといって例外扱いはされないだろうという見解だ。共同通信自身も「取材上、行き過ぎがあった」と非を認めているこの事件。いくら「犯人」が使っていたメールの内容を取材したいといっても、法を犯したアプローチは認められないということだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

西田 広一
西田 広一(にしだ ひろいち)弁護士 弁護士法人西田広一法律事務所
1956年、石川県小松市生まれ。95年に弁護士登録(大阪弁護士会)。大阪を拠点に活動。大阪弁護士会消費者保護委員会委員。関西学院大学非常勤講師。最近の興味関心は、読書(歴史小説)、食品の安全、発達障害など。

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