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「殺処分でいいやん」 障害者へのネット書き込みに開示命令、背景に「相模原殺傷事件」の思想か
東京地裁(Caito / PIXTA)

「殺処分でいいやん」 障害者へのネット書き込みに開示命令、背景に「相模原殺傷事件」の思想か

声を上げた障害者に「殺処分でいい」などとネット掲示板に書いた人たちがいる。生存意義を否定する言葉に深く傷ついた男性は、それでも負けじと裁判手続きをすすめ、投稿者を次々に特定した。

匿名掲示板では顔の見えなかった彼ら、彼女らと直接やりとりしてみると、「安易な気持ちで書いた」と話したという。

このような言葉は本来、「安易」に書けるものではないはずだ。煽るような言葉によって、差別的動機に基づいた犯罪の発生も懸念される。

誰しも障害者になる可能性はある。そうでなくても、誰しも老いていつかは動けなくなるのだ。

男性の代理人をつとめる下山順弁護士は「こうした投稿をしてしまった方たちには、自分や自分の家族に重度障害があったらどう思うのか、今一度考えてみてほしいです」と呼びかける。(編集部・塚田賢慎)

●裁判を起こした障害者にネットリンチ

「こういうゴミクズはマジで死んで欲しい 一体何が目的で生きてるのか意味が不明」 「殺処分でいいやん」 「安楽死させよう 生産性のないやつは生きる価値無し」

ネット掲示板への書き込みが、原告の名誉を傷つけるものだとして、東京地裁が2022年末日、投稿者の個人情報開示をプロバイダに命じる判決を出した。

プロバイダへの裁判を起こしていたのは、群馬県前橋市在住の身体障害者の40代男性だ。男性には脊椎骨端異形成症という障害がある。そのため、左手を動かせるだけで、1人で生活することは困難だという。

2022年4月、前橋市を相手取り、24時間体制の介護サービスの提供を求める義務付け訴訟を提起した。

提訴を扱った新聞社の記事がネットに配信されると、すぐに「5ちゃんねる」で引用され、スレッドがたてられ、男性への誹謗中傷が相次いだ。

男性の代理人の下山弁護士は「介護支給量に関する訴訟提起の影響により、こうした誹謗中傷を受けたことから、訴訟を受任した弁護士としても責任を感じるところはありました」と述べるが、だからと言って、そのような中傷を許せるわけではない。

「ご本人はこうした書き込みを確認して、とても傷ついていました。介護しながら窒息死させたいというコメントもあり、心底恐怖を感じるとも言っていました。私としても許されない『障害者ヘイト』だと思いました」

画像タイトル イメージ(polkadot / PIXTA)

男性は複数の投稿について、発信者情報開示の手続きを進めていった。東京地裁は2022年12月23日、同27日、複数のプロバイダに対して、投稿者の氏名や連絡先等を開示する命令を出した。

たとえば、「殺処分でいいやん」という投稿について、裁判所は、男性の生存意義を否定し、同時に家畜と同等に評価して原告の人格的価値を傷つけるもので、名誉感情の侵害にあたるとの判断を示した。

下山弁護士によると、これら2件のほかにも、係争中の同種裁判が1件あるという。いずれにせよ、特定できた投稿者には、損害賠償請求などをもとめていく考えだ。

なお、投稿者の中には開示手続きに任意に応じ、すでに謝罪し、示談に至った者も複数いるという。

●重すぎる言葉を書いた人たちが口にした軽すぎる言葉

下山弁護士は、何人かの投稿者と直接話をした。女性もいたが、多くは男性だったという。

「直接話をした際、ある投稿者は『安易な気持ちでつい書いてしまった』などと述べており、心から障害者を憎んでいるといった印象はありませんでした。この投稿者の場合は、普段から掲示板に書き込みをしていたところ、今回のスレッドを見つけて、何かコメントを書きたい気持ちに駆られて思わず書いてしまったようでした」

これらの書き込みをみて思い出されるのは、多くの障害者が殺された相模原殺傷事件を起こした植松聖死刑囚の思想だ。問題となったスレッドにも、彼の名前がよく現れる。

「スレッドの書き込みの中に『植松~出番だぞ』『植松の虐殺は最高だった』といった相模原殺傷事件に関するコメントがあったことには驚きました。調べると、ネット上ではかなり以前から植松受刑者の主張を支持するものがあったようです。

性的マイノリティの人たちについて「『生産性』がない」と発言した国会議員がいましたが、生産性という特定の物差しで人の価値をはかろうとする点で、植松支持の思想と共通する部分があるようにも思われます。こうした風潮が今の社会にはあるのかもしれません」

(「生産性がない」と雑誌で発言したのは杉田水脈議員。2022年末に発言を撤回したが、それが差別にあたるか自身の考えを明らかにしていない)

●自分や自分の大切な人が障害者になることは、ありえる

障害者ヘイトの誹謗中傷が確認された場合、刑事告訴も含めた毅然とした対応が必要だと下山弁護士は言う。

「掲示板への投稿は、優生思想のもとで、障害者を虐殺したナチスドイツを思わせるもので、こうした考えがさらに広がってしまうことはないか、強く危惧しました。かつてのナチスのように社会が誤った方向に進んでいかないためにも、また、差別的動機に基づいた犯罪(ヘイトクライム)を二度と発生させないためにも、差別感情を煽るような表現は決して許してはいけないと思います。

社会で活躍している重度障害者の方も多くいますし、障害のある家族や友人が支えとなって強く生きていける人たちも多くいます。社会的障壁の解消によって、障害があっても健常人と同様に活動することが可能になります。

日本においてもかつて優生保護法という法律があり、障害者に対する強制不妊手術などが行われ、多くの方が被害に遭いました。この法律は優生思想に基づく障害者差別であるとして1996年に改正されましたが、日本にも社会やマジョリティの都合で人の命の優劣を決めてきたという負の歴史があります。制度は変わっても、果たして私たちの内面は変わったのか、暗い気持ちにもなりました。

多様性を排除するのではなく、多様性を認め合う社会の実現のために何が必要で、私たちの社会には何が足りていないのか、ネット社会の性質も踏まえて、検討すべき課題が多く残されているように思われます」

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