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勤務先の不祥事を「SNS」で内部告発、正当性が認められないケースはあるの?
(buritora / PIXTA)

勤務先の不祥事を「SNS」で内部告発、正当性が認められないケースはあるの?

職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第20回は「SNSで内部告発、注意点はある?」です。最近は大阪王将の元従業員の男性がツイッターで、店舗の衛生状況について告発したことが話題となりました。その後、保健所が立ち入り調査に入り、店舗は閉鎖に追い込まれました。

SNSで実際の写真ややりとりなどを掲載する内部告発で、気をつけることはあるのでしょうか。詳しく解説してもらいます。

●損害賠償請求を行ってくる企業も?

一般人でもSNSで簡単に情報発信ができるようになっていますが、最近話題になっている投稿の中には、自分の勤務先の不祥事をTwitterに投稿しているものが多く見られます。

企業による食品偽装やデータ改ざんなどの不祥事は後を絶たず、もしこれが正されなければ、社会にとって大きな悪影響が生じます。このような企業の不祥事を発見した従業員が告発することで、その是正を求めていくことは、社会的に意義のある行為です。

他方で、内部から不祥事の告発を行うことは、勤務先の企業としてのイメージを損ない、大きな損害を与えかねません。告発を行った従業員に対し、解雇等の不利益処分や損害賠償請求を行ってくる企業もあるでしょう。

このような事件が裁判所に持ち込まれた場合、裁判所はどのように判断しているかについてご説明します。

●裁判所の判断は?

裁判所は、(1)告発内容が真実であり、または真実であると信じる相当な理由があるか、(2)告発の目的に公益性があるか、(3)告発の手段・態様が相当なものと言えるかを総合考慮して、告発が正当と言える場合には、仮に企業の名誉・信用が毀損されていたとしても、告発者は損害賠償義務を負うことはなく、告発者に対して不利益処分を行うことは許されないと判断しています。

最近では、京都市の児童相談所職員の方が、告発の際に、内部情報を入手し持ち出したことをとがめられ、停職処分を受けた事件がありました。

裁判所は公益を図る目的のもと、事実の真実性を裏付けるために必要な証拠を保全するために行われたと言える場合には、組織の機密文書管理ルールに違反するという側面があったとしても、正当な行為として処分の対象にすることは許されないと判断しています(大阪高裁令和2年6月19日判決)。

ほかにも、最近、大手飲食チェーン店の厨房で、ナメクジが発生していることを告発したSNSの投稿が話題となり、この告発がきっかけとなって保健所の立ち入り検査が行われるにまで至ったということがありました。

本当に厨房にナメクジが発生していたとなると、その厨房は極めて不衛生であり、調理に適した環境とはとても言えず、料理を食べた顧客に害が及ぶ可能性すらあるわけです。そのため、この告発には公益性が認められる可能性が高いといえるでしょう。

●どんな告発でも認められるわけではない

それ以外にも、要件は厳しいものの、公益通報者保護法による法的保護を受けることができる場合もあります。

まず、通報先が社内ということであれば、要件が最も緩く、通報しようと考えている事実が生じているか、またはまさに生じようとしていると思料することをもって足ります。

通報先が行政機関である場合には、通報しようと考えている事実が生じているか、まさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること(ただし通報者の氏名・住所等を書面に記載し提出する場合には不要)までが必要です。

通報先がそれ以外の場合(マスコミ等)には、通報しようと考えている事実が生じているか、まさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があることに加え、社内や行政機関に公益通報することが期待できない事情のあることまで必要とされます。

以上のように、たとえ真実であっても、どんな告発でも認められるということではありません。

例えば、自分の社内の人事評価に恨みを持ち、この恨みを晴らすことを目的として、社内での自主改善をまず求めることもせずに、いきなりSNSにアップするというような乱暴なやり方では、正当性は認められないでしょう。

不祥事を告発する場合には、告発の目的が公益目的であることがわかるようにはっきり明示したうえで、告発する不祥事の裏付けとなる証拠を必ず確保し、通報先としてまずは会社の専用窓口や行政機関を検討してみることが重要です。

●告発後の会社の対応を証拠に

また、告発後の会社側の言動は、詳しく証拠に残しておくことも重要です。

というのも、告発後に会社が告発者に対し、まったく別の理由を持ち出して処分をしてくることがあり得るからです。このような場合に備え、会社が告発に対し強い恨みを抱いており、告発者の方に処分を加える真の動機が告発を行ったことにあったことを立証できる材料を手に入れておく必要があります。

(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)

プロフィール

笠置 裕亮
笠置 裕亮(かさぎ ゆうすけ)弁護士 横浜法律事務所
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」「就活前に知っておきたいサクッとわかる労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。

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