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美術や映画などの指導的立場、男性率8割近く「女性が評価されづらく、多様な表現きえる」 表現の現場調査で浮き彫り
厚労省で会見する表現の現場の調査団(提供写真)

美術や映画などの指導的立場、男性率8割近く「女性が評価されづらく、多様な表現きえる」 表現の現場調査で浮き彫り

映画界や美術界でセクハラが告発されるなど、近年、表現に関わる分野でのハラスメントが問題となっている。ハラスメントはなぜ起きてしまうのか。

その背景を探るため、ハラスメント問題に取り組む「表現の現場調査団」が、10分野の男女比率を調査したところ、教授や審査員、評論家、監督など、表現者を評価・指導する側の立場が男性に偏っていることが明らかとなった。

調査団が8月24日、調査結果をまとめた「ジェンダーバランス白書2022」を公表した。 https://www.hyogen-genba.com/gender

結果を踏まえ、調査団は、ジェンダーバランスの不均等は、ハラスメントの温床になりやすいだけでなく、多様な表現の妨げになると指摘。よりよい表現を生み出すために、これらのデータに基づいた議論が必要であるとしている。

●「文化にとっても多様性失われる」

今回、10分野(美術・演劇・映画・文芸・音楽・デザイン・建築・写真・漫画・教育)にわたる ジェンダーバランスが調査された。

白書によると、これらの分野の審査員の平均男性率は8割近くとなっており、どの分野においても「男性が審査し、男性が評価されやすい」という男性優位の構造が認められた。

調査団は8月24日、東京・霞が関の厚労省で会見を開き、「こうした男性優位の構造で、女性が評価されづらいだけでなく、文化にとっても多様な表現が失われるという大きな損失がある。まずは、審査員を男女同数にすることが大事だ」と指摘した(調査団メンバーでアーティストのキュンチョメさん)。

映画分野の調査結果について、調査団メンバーで映画監督の深田晃司さんは、次のようにコメントした。

「映画界では労働環境の劣悪さがジェンダーバランスの偏りにつながっている。また、映画は数千万円から数億円という予算がかかるが、経済リスクを避けるために実績のある男性監督に任されてしまい、さらに男性優位となってしまう。表現の当事者が多様であることは民主主義の根幹ですが、こうした不均等を変えていくことが必要です」

●女子学生が多いのに、教授は男性だらけ

今回、美術・音楽・演劇・建築・文学の5分野に関わる大学が調査対象となったが、特に、美術や音楽の教育機関では、女性学生の比率が7割を超えているのに対し、教員の男性比率が高いという特徴があった。

たとえば、東京藝術大学と五美術大学(多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京造形大学、日本大学芸術学部、女子美術大学)では「指導される側」は女子学生が8割を超えているのに対し、「指導する側」は男性教授が7割以上を占めるなどの不均等があった(2021年)。

こうしたことから、調査団に参加しているアーティストの笠原恵実子さんは、教育機関におけるジェンダーの非対称性について、男性教員から女子学生へのハラスメントを生む背景となっていることを指摘して、白書の中で、次のように述べている。

「こういったハラスメントの告発や相談は、数少ない女性教員に集中するといった事態を招き、ハラスメントに意識的でない多数派の男性教員たちからのパワーハラスメントへと発展するケースも見受けられる」

また、教員内部にもジェンダーバランスの不均等がみられた。教授・准教授・専任講師は男性が多数を占めているが、若年層が多い助教や助手は女性の雇用が多いという傾向があった。

現在、政府は男女共同参画基本計画において、2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上にすることを目標としてきたが、今回の調査で「任期付特任教員」として女性を採用して、全体の女性比率を増やしていると思われる大学もあったという。

●「あいトリ」によるジェンダーバランスへの影響

美術分野の賞やコンペティション13団体の審査員(2011〜2020年)を見ると、大学同様の偏りがあった。審査員は7割以上を男性が占め、大賞受賞者も8割近くが男性だった。受賞などで評価されることで、美術館で個展が開かれたり、作品が購入される機会が増える。

2011〜2020年に15の美術館で開催された個展を見てみると、男性318人、女性58人と大きな偏りがあった。

青森県立美術館では、10年間で個展が開催されたのは男性作家のみだった。美術館での個展は作家のキャリアにとって重要なだけでなく、個展開催を機に、作家の作品を購入することが多い。

実際、国立国際美術館など7館を調査したところ、作品が購入された作家のうち7割超が男性作家だった(2011〜2020年)。作品数にいたっては、8割以上が男性のものだった。こうした受賞から作品購入にいたるまでのジェンダーバランスの不均等は、経済的な格差が生まれやすいと指摘されている。

他の美術館に比べて、ジェンダーバランスの不均等が小さかったのが、愛知県美術館だった。特に2020年は、作品購入された作家のうち女性が5割を超えるなど逆転現象があった。これは、2019年に愛知県美術館などを舞台に開催された「あいちトリエンナーレ」において、参加作家のジェンダーバランスが均等になるよう配慮された影響と考えられるという。

●ジェンダーバランスが最もとれていた漫画分野

美術分野でみたような男性優位の構造は、どの分野にもほぼ共通している。他方で、漫画の分野では、他の分野に比べてジェンダーバランスが最もとれていた。

漫画分野5団体の審査員は、6割が男性で、大賞受賞者は男性と女性がそれぞれ4割と、ほぼ均等の状態だった(2011〜2020年)。ただし、1割を超える受賞者が性別を明らかにしておらず、他の分野に比べて特徴的だった。

しかし、白書において、漫画家の坂井恵理さんは、こうしたデータだけではわからないジェンダーギャップの存在を次のように指摘している。

「たとえ労働環境が『男女平等』であっても、『男社会』の影響は受ける。男性名や性別不明のペンネームで執筆する女性作家がいるのは、自身の性別を特定したくないという理由の他にも、読者が描き手の性別によって評価を変えることがあるのも一因だろう」

●ハラスメント対策のリーフレット作成

表現の現場調査団では今後、表現に関わる分野を専門とする学生を対象に、ハラスメントについて基本的な知識や対策などの情報をまとめたリーフレットを配布するとしている。

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