世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の伝道手法の違法性を問い続けてきた郷路征記弁護士が8月23日、札幌からオンラインで講演した。
安倍元首相銃撃事件の容疑者家庭について報じられている情報をもとにしながら、伝道の手法を解説し「容疑者の母親は重要なターゲットだったはずだ」と話した。自由法曹団100周年を記念して、同北海道支部と青年法律家協会北海道支部の共催として行われ、約450人が視聴した。
●「不安や恐怖は生物にとって生存本能に直結している」
郷路弁護士は1980年代から旧統一教会の元信者らの話を聞くなどして伝道手法を研究してきた。今回は、実際に入信させるために使っていた資料を示しながら、信者が多額の献金や勧誘に巻き込まれていく経過を解説した。
教会側が勧誘の対象とするのは、お金を持っている人や宗教心のある人だと指摘し、容疑者の母親は「重要なターゲットで、幹部はやれると判断したのだろう」と述べた。伝道は組織的に行われ、幹部に報告しながら方向性を決め、緻密に積み重ねていくのだという。
因縁や霊界の存在を信じさせ、不安を喚起させることが始まりだといい、「どうしたらいいの?」と解決策を求める心理状態まで持っていく。
「不安や恐怖は生物にとって生存本能に直結している。その対象から逃げるための行動を選択せざるを得ない」
こうして全力の献金という大きな犠牲を払わせた結果、因縁が解消したという誤解が高まる。いったんは「これで大丈夫!よかった」との安堵を覚えさせる。そのうちに救いの対象を世界万民などと普遍的なものへ広げ、だましを持続させて献身的に活動させていく。
●「いくつになっても回復はできる」
報道によると、容疑者の母親は30歳ごろまでに身近な人の死を多数経験している。このことを引き合いに、郷路弁護士は「つらい、悲しい経験は因縁のせいだと信じ込まされた可能性がある」と推測する。
自己破産するまで献金させられたのは「自分だけで判断したとは思えない。激しい幹部の指示があったはず」と説明し、正しいことと信じて葛藤を乗り越えるために頑張っていたのだろうと慮った。
2015年に容疑者が自殺未遂した際にも韓国から帰らなかったとの情報もある。「母の情愛がなかったんじゃない。それを押し殺してしまうほど頭を支配されていた。心で泣きながら帰れなかったのではないか」。
郷路氏が会ってきた元信者は本来持っていた自己を回復し、市民生活を送っていると紹介し、「母親がいくつになっても恐怖から脱却できれば、そうなれると信じている」と語った。
視聴者からマインドコントロールへの対処法を問われると「自分がどんなタイプの怖さに反応しやすいのか知っておいたほうがいい。近づかないようにしたり、勉強してバリアを構築すること」と述べ、耐性をつけることを助言した。
講演の全内容は自由法曹団北海道支部のYouTubeで見ることができる。