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【新・弁護士列伝】「困っている人をバックアップしたい」B型肝炎やいじめなど社会問題解決に尽力 半田望弁護士インタビュー
半田望弁護士

【新・弁護士列伝】「困っている人をバックアップしたい」B型肝炎やいじめなど社会問題解決に尽力 半田望弁護士インタビュー

弁護士ドットコムニュースでは、一般の方々に弁護士をもっと身近に感じていただくために、学生による弁護士へのインタビュー企画をおこなっています。

今回お話を伺ったのは、半田望弁護士(半田法律事務所)です。半田弁護士は、接見交通権の国賠訴訟や、B型肝炎の弁護団での活動など、様々な重要事件に取り組んできました。佐賀大学での講義や、子ども達に向けたいじめ予防の授業などを通して、幅広い世代に法律の知識をわかりやすく伝えることにも注力しています。

インタビューでは、弁護士を目指したきっかけや、これまで取り組んできた事件に関するエピソード、法教育への思いなどについて、お話いただきました。

研究対象としての法律に興味 恩師の言葉で弁護士を志す

−弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。

私は小学5年生のとき不登校になり、地元の高校には進学しましたが1年生の途中で中退しました。高校を中退した頃、オウム真理教事件や阪神淡路大震災が発生。社会問題を解決する弁護士の姿を目にすることが多くなり、法律への興味が湧きました。本格的に法律を学んでみたいと思って大検を取り、立命館大学法学部に進学しました。

専門的になにかを学びたいというのは、大学教員をしていた父の影響もありました。父の専門は理系分野でしたが、研究に打ち込む父の姿を見て、自分も研究職に就きたいと思っていました。父と同じ分野も考えましたが、数学が苦手で理系は向いていないと思い、文系で学問を究めるのであれば何があるかな、と考えた結果法の道を選びました。

大学進学の時点では、漠然と法律に関わる仕事ができればと思っていましたが、大学で司法試験を受けるための専門講座を受講し、法曹の仕事に興味を持ちました。その後は司法試験を目指すか研究職を目指すかで悩んでいましたが、弁護士を目指す最終的なきっかけになったのは、恩師の言葉でした。

恩師の研究分野は会社法で、私もゼミで指導を受ける中で会社法を研究してみたいと思って相談したところ、「会社法は実務と密接に関係しているから、実務を知らないと研究はできない。実務を経験して深めたいと思った分野を研究しても遅くはない」と言われました。

実務と研究の関連性や実務の重要性に気づかせて頂き、まずは実務を行いながら関心の出た分野の研究をするのが面白そうだと思い、司法試験に軸足を移すことになりました。このとき頂いた言葉は、あとでお話しする接見交通権に関する取り組みにも当てはまることで、いまも大切にしています。

−どんな学生でしたか?

司法試験を受ける人は、「高校時代から弁護士を目指して一生懸命勉強し続けている人」というイメージを持つ人もいると思います。私はそのイメージには当てはまりません。高校には行かずアルバイトをしながら自分なりに将来を模索していました。大学に入ってからは多少は真面目に勉強をするようにはなりましたが、朝から晩まで自習室にこもって、ということは一切しませんでした。

むしろ、友人と朝まで飲み歩いたり、趣味の車やバイクでツーリングに出かけたり、それなりに学生生活を満喫していたと思います。もちろん司法試験の勉強もきちんとしていましたが(苦笑)、このときの勉強以外の経験が今の仕事の役に立つこともあるので、大学生の時にいろいろな経験を積めたことが結果的によかったと思います。

−注力分野やその分野に注力している理由を教えてください。

交通事故の案件です。被害者側の事件も多数取り扱っていますが、独立する前からある損保会社にお世話になっていたこともあり、加害者(保険会社)側で交通事故の案件を担当するほうが多いです。大学院で保険法と会社法の分野を研究し、修士論文も保険法のテーマを取り上げたので、そのとき身につけた保険についての知識や感覚も役に立っています。

また、今も週末にはバイクや車でツーリングには行っていますし、バイクや車の構造も熟知しており、簡単な整備は自分でやっていますので、その知識を活かして物損や車体の損傷から事故状況を分析するような事件も取り扱うことが多いです。興味と趣味を生かし、交通事故の案件は独立当初から継続的に手がけています。

−事務所に寄せられる最も多い相談は、どんな相談ですか。

交通事故の案件が多いですね。佐賀は電車やバスの本数が少ないこともあり自家用車の所有率が高く、統計上、軽自動車の世帯あたりの保有率は全国でも上位のようです。車は一家に1台ではなく、1人1台といっても過言ではありません。車社会なので、どうしても交通事故も多くなり、弊所での相談の割合も高くなっています。佐賀県は人口10万人あたりの交通事故死者数がワースト5に入っています。そのため、物損・人身事故を問わず、交通事故の相談や案件は多数お受けしています。

交通事故以外の案件では破産や、離婚、相続、労働問題などのいわゆる「町弁」の仕事は幅広く取り扱っています。また、市民側で行政事件に関わることもあります。破産管財人など裁判所から依頼される業務も継続的にあります。最近は地元の中小企業からご依頼を受けて、労働問題や企業間取引の支援を行う案件も増えてきました。刑事事件も国選・私選を問わず取扱いがあります。

接見交通権の訴訟、B型肝炎弁護団…重要事件に注力

−弁護士として活動してきた中で、1番印象的だったエピソードを教えてください。

正直言って難しいです。事件ごとに思い出は様々なので、なかなか1つには絞れません。

あえて挙げるのであれば、接見交通権の国賠訴訟です。弁護士は身柄の拘束を受けている被疑者と立ち会い人なしに接見することができますが、拘置所や警察署で接見自体を妨害されたり接見内容を盗み聞きされたりすることがあります。このような違法な行為について国などに賠償を求める事件に縁あって関わることになり、いまも接見交通権を巡る問題については継続的に取り組んでいます。

私が関わった接見国賠で特に印象に残っている事件は2つあります。いずれも佐賀の事件で、1つ目は「刑事訴訟法判例百選(編注・有斐閣が出版する判例集)」にも載っている事件です。私の先輩弁護士と被疑者の接見内容を、捜査機関が聞き出そうとしたことの違法性が争われた事件でした。佐賀地裁の判決では捜査機関の行為は違法とは認められませんでしたが、「接見内容を聞き出すことが許されるなんてあってはならない。なんとかしないといけない」との思いでいろんな方のご協力を頂き、福岡高裁では捜査機関の違法を認める逆転勝訴判決を得ることができました。

この事件は最高裁まで争われましたが、最終的に高裁判決が確定しました。また、この事件に関わったことが縁で、接見交通権に関する問題を検討している日弁連の委員会に所属することになり、いまも活動を続けています。

もう1つは、後輩の弁護士が巻き込まれた事件です。後輩が弁護人を務めた被疑者が、逮捕の際に警察から暴力を振るわれて怪我をしたというので、拘置所の面会室で怪我の部分をカメラで撮ろうとしたそうです。すると、立会いの職員に「なんで写真を撮っているんですか?」と踏み込まれました。そのまま被疑者を連れて行かれ、面会ができなくなってしまったんです。

以前にも似たような事件が裁判になっていて、私も弁護団に関わっていました。「佐賀では起こらないといいね」と話していた矢先に後輩の事件が起こり、協力しないわけにはいきませんでした。「拘置所が写真撮影を禁止したことや、職員が接見内容を把握したことは接見交通権の侵害にあたる」として、訴訟を佐賀地裁に起こしました。

佐賀地裁では接見内容を把握しようとしたことは違法であるとされましたが、写真撮影を禁止したことは違法ではないとの判決となりました。私たちとしては、写真撮影も弁護活動で必要な行為であると主張して最終的に最高裁まで争いましたが、この部分は残念ながら認められませんでした。その後も面会室内での電子機器の使用に関する問題が全国で発生しており、日弁連の委員会でも取り組みを続けています。

−半田先生はB型肝炎の弁護団でも活動されています。訴訟に携わることになったきっかけを教えてください。

2011年に弁護団の方に声をかけられたことです。当初、私はB型肝炎の知識があまりなかったのですが、実際に九州の原告団の中核になられている方や弁護団の弁護士のお話を聞き、被害の重大性や原告の悩みを知り、これは弁護士が対応すべき被害だと感じました。

B型肝炎訴訟は、平成元年に北海道の5人のB型肝炎患者が起こした裁判が始まりです。昔は、B型肝炎の原因は母子感染だと言われていましたが、彼らは「自分たちの家族には誰もB型肝炎の患者はいない。幼少期の予防接種が原因としか考えられない」と主張し、国に賠償を求める裁判を起こしました。裁判は最高裁判決まで争われましたが、最終的に平成18年に患者側の勝訴が確定しました。

ところが、国は、原告になっていない患者には賠償を支払わないという対応をとりました。予防接種でB型肝炎に感染した人は推計で40万人とも言われていますが、最高裁で国の責任が認められてもこれら被害者は救済されませんでした。そこで、2008年に被害にあった人たちは全員裁判をするしかないと方針を固め、全国での一斉訴訟を行いました。 その後、2011年に弁護団と国との間で被害救済に関する「基本合意」が結ばれましたが、いまも救済を受けるためには訴訟を行う必要があります。

B型肝炎弁護団は最高裁判決を勝ち取った弁護団の呼びかけに応じて集まった弁護士を中核とし、各県に実働の弁護団があります。佐賀弁護団は福岡の九州弁護団の支援を得ながら、原告の掘り起こしや事件対応などの各種活動をしています。

−実際にどんな活動を行っているんですか?

まず、原告の掘り起こしです。被害の実態を国に伝え、必要な施策を講じさせるためには1人でも多くの方にきちんと声をあげてもらうことが大切だと思っています。弁護団の活動は国から補償をもらって終わりではありません。国に対しB型肝炎を含む肝炎患者の治療水準を上げて、安心して治療を受けてもらえるよう必要な施策を講じることを求めて尽力しています。

そのほかにも看護師などの医療分野を目指される方に対し、専門学校での教育啓発も行っています。なぜB型肝炎は広まったのか、どういう苦労をされてきたのかを患者さんがお話しします。その中で弁護士が法律に関する話をすることもあります。B型肝炎は血液感染するため、患者はこれまでも不当な差別や偏見を受けていました。医療機関でも差別・偏見があり、今でも残っていると感じています。そうした問題を解消するために、弁護団としてお手伝いしています。

いじめ予防の授業など法教育にも取り組む

−佐賀大学の特任教授としても活動されています。どんな内容の授業をおこなっているのですか。

佐賀大学に法学部はありませんが、経済学部の中にある法律コースで法学の講義が組まれており、私は民事手続法を担当しています。経済と法は切っても切れない関係にありますが、実際に授業を受ける学生は法律を体系立てて学んでいる学生だけではありませんので、そのような学生にも民事訴訟法や民事裁判の手続きをどうわかりやすく教えることができるか、日々悩みながら講義をしています。

私は、法律は、「日本語で書いてある日本語ではない言語」だと思っています。日本語で書いてある別の国の言語とイメージしてもらうとわかりやすいと思います。言うなれば「法律語」です。

法律は日本語で書いてあるので、読めば意味がわかるように思えます。しかし実際には、法律の概念や論理をきちんと理解していないと何もわかりません。学生に対しては、なぜこういう書き方になっているのかをきちんと説明して、法律語を読み解く力を身につけられるような授業をおこなっています。

私が教えている分野である民事訴訟法は、学問と実務の乖離(かいり)が激しいです。法律のイメージを持ち、現場の生きている法律を伝えるためには生の事例を紹介することが重要で、自分の経験をふまえて講義をしています。ただ、事例は事例で、個別の判断になってしまい、一般化できない部分も多いので、いかに一般論に落とし込んで学生に理解してもらえるように授業するか、悩みどころです。

−いじめ予防の授業など、様々な教育活動もおこなっていると伺いました。

弁護士会の法教育委員会の活動の一環として、学校での講演、講義活動をおこなっています。中心は高校生を対象に主権者教育や、消費者教育、労働のワークルール教育です。今後社会に出るにあたって、どのようなことに注意して行動すべきかを講義しています。

最近増えてきたのはワークルール教育です。高校生を対象に労働法の基本知識をお話ししています。私は労働弁護団に所属して、労働者側の事件も多く扱ってきました。中小企業法務にも注力している関係で会社側の考えや事情も理解しています。お互いの言い分があるなかでどうすればよりよい解決になるのか、という視点から、実際の事例を通じた労働法の知識を高校生に伝えています。

もう一つ注力しているテーマが、小学生、中学生を対象にしたいじめ予防授業です。いじめの悲惨な事例は沢山あります。しかし、いじめは未だになくならないですよね。学校の先生は、「いじめは悪いことだ」とは言っても、「なぜいじめはいけないのか」まで理屈を立てて説明してくれない気がします。子供もいじめをしてはいけないのはわかっているんです。なぜ、悪いと言われているいじめをしてしまうのか、実際にいじめられている人がいたらどういうふうに接すればいいのか、といったことを、弁護士からお話ししています。

−先生はいじめについて、どのように考えていらっしゃるのですか。

実は、私が不登校になった理由はいじめなんです。いじめを受けた経験からは、単に「いじめはやめよう」「いじめは悪いことだ」とだけ伝えることはしたくないと思っています。

もちろん、いじめている人をとがめ、いじめを止めさせることは必要です。しかしそれだけではなく、いじめを受けている人が今どうすべきかということや、友達がいじめで不登校になっているときにどのような対応をするかも重要だと思っています。対応を間違えると、より不幸な結果が起こってしまう可能性があるからです。今いじめで悩んでいるなら「元気が出るまで休んでいいよ」と声をかけたいですし、いじめられている人にどういうふうに接すればいいのか、困っている人を助けるにはどうすればいいのか、ということもお話しすることが多いですね。

報道では、いじめが起きた事実が伝えられます。起きてしまった結果をふまえて権利救済をすることも必要です。でも、本当はいじめが発生すること自体がだめなんです。弁護士を含めた大人に求められていることは「いじめの発生やいじめによる不幸な結果をどうやって防ぐのか」だと思っています。

「相談するだけでも、心が軽くなる」

−今後の展望を教えてください。

今年で弁護士登録して13年になります。いままでも地域密着型の事務所を目指して取り組んできましたが、今後も引き続き、地域の方の法律問題の解決をバックアップできるよう活動していきたいです。

東京などの大都市の事務所と違い、地方の事務所の弁護士は特定の分野だけを取り扱うことは少ないと思います。地方は大都市に比べて事件数も少ないですし、いろいろな分野の知識や経験が求められる複合的な問題のほうが多いという印象がありますので、私もそのようなニーズに対応できるよう、様々な分野の知見を高めていく必要があると考えています。

いまも様々な案件を手がけていますが、その中でも交通事故の案件は重点的に取り扱う分野です。自動運転などの新しい問題にも対応できるようにならないといけません。保険会社側のお仕事をいただくことも多いため、保険商品や保険の設計の知識もつけていきたいです。

中小企業法務も注力していきたい分野です。地方の中小企業は、どの社員よりも社長が一番働いていることが特徴だと思っています。弁護士が経営者のサポートをしながら、紛争予防や、事業が円滑に進むお手伝いをしていきたいです。また、後継者不足が言われる現在、事業継承も大きな問題です。佐賀でも後継者がいない会社やお店がたくさんあると思います。このような企業がうまく事業を引き継ぎ、次の世代に繋げていけるようバックアップしたいと思っています。

B型肝炎訴訟もライフワークの1つです。裁判自体が終わってもB型肝炎という病気自体がなくなるわけではありません。B型肝炎問題が解決するまでは、携わっていくと思います。

刑事弁護や接見交通権についても、日弁連での活動を含めて積極的に対応したいと思っています。全国各地の弁護人が弁護活動の妨害を受けないよう、取り組んでいきたいです。

−最後に、法律トラブルを抱えて悩んでいる方へ、メッセージをお願いします。

もっと気軽に弁護士を頼っていただきたいなと思います。実際にトラブルを抱えてらっしゃる方は「こんなことを弁護士に相談してもいいんだろうか」「自分の悩みは弁護士の仕事なのだろうか」と悩むことが多いです。私の事務所にも「弁護士が対応できますか」とよく問い合わせが来ます。内容を聞いてみると、弁護士が対応すべき案件であることがほとんどです。

早い段階で弁護士のところに行けば打つ手もあります。自己判断で誤った対処をすると取り返しがつかなくなることも多いです。依頼するかしないかは別として、まず、トラブルを正確に把握し、自分が置かれている状況を認識するために、相談に来てほしいです。その上で、どのような対策や手立てが必要なのか、弁護士からアドバイスできればと思います。

相談者から、よく「相談すると楽になる」と言われます。例えば、熱が出て具合が悪いとき、どんな病気かわからないと不安ですよね。病院で検査して、症状がわかって、「薬を飲めば治ります」と言われたら安心するじゃないですか。弁護士に相談するのも同じことです。弁護士に悩みを相談することで、抱えている問題の見通しが立つと思います。解決の糸口が見えると、「相談したことで心が軽くなりました」と言われます。相談者の肩の荷が降りたとき、弁護士の仕事をしてきて良かったなと思うんです。

(取材・文 山下沙也加)

プロフィール

半田 望
半田 望(はんだ のぞむ)弁護士 半田法律事務所
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。

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