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新型肺炎、なぜ強制検査できなかった? 安倍首相「人権の問題もある」と語った背景
東京都府中市の警察大学校。武漢からのチャーター機で帰国した第2陣の人たちが滞在すると報道されている(警察庁HPより、2020年1月30日現在/ https://www.npa.go.jp/keidai/ )

新型肺炎、なぜ強制検査できなかった? 安倍首相「人権の問題もある」と語った背景

新型コロナウイルスが世界各地で感染拡大していることから、世界保健機関(WHO)は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言。これを受け、政府は新型コロナウイルスを指定感染症と検疫感染症に定めた法令を当初予定から前倒しし、2月1日から施行する方針と報じられた。

これにより、感染の疑いがある人に対して、検査や診察、強制入院を指示できるようになる。従わない場合は罰則が科せられることになる。

法整備が進む中、中国・武漢市からチャーター機による日本人の帰国が続くが、1月29日に到着した第1便では2人が検査を拒否したとして、問題となった(その後、1月30日になって検査を申し出た)。

現行法下、なぜ感染の疑いのある人に対して、検査や隔離を強制することができないのか。人権問題に詳しい作花知志弁護士に聞いた。

●強制検査、現行法では憲法違反になった可能性

武漢からのチャーター便第1便で、検査拒否する人がいたが、強制は難しかった?

「新型コロナウイルスは指定感染症や検疫感染症に指定され、感染症法に基づいて、2月1日から検査の指示や隔離措置をとれることになっています。しかし、施行前では国内の新型コロナウイルスの検出前にその法律が及ばず、安倍首相も『法的拘束力はない。人権の問題もあるので踏み込めない』と発言したように、検査は義務付けられていませんでした。

そもそも感染症法に基づく隔離措置自体が人権侵害なのではないか、と指摘される性質を有していますから、措置自体が合憲であったとしても、ウイルス検出前の方についても隔離措置をとれるということになると、結果として感染症ではなかった方も隔離してしまう可能性が生まれるからです。

また、一般的には病気やウイルスの感染もプライバシー情報ですので、それを本人の同意なく国が取得する、ということはやはり憲法に照らすと許されないのではないか、と考えられているからです。

上でお話した、ウイルス検出前の方に対して措置をとることは憲法違反であるとすると、当然検査についてもプライバシー保護の観点から、個別の同意がないと行えないとされることになります」

●海外では武漢からの帰国者を隔離、日本は?

海外では、武漢からの帰国者を発症の有無に関わらず、集団で一時的に隔離する措置をとっているところもある。日本では現在、政府が確保した宿泊施設に留まるようお願いしているが、これも現状では強制は難しい?

「とても難しい問題ですね。措置を受けない権利、プライバシー権の保護からすると、やはりウイルスを検出されていない人を隔離することは憲法上許されないとされる可能性は多いにあります。

しかし、今後、新型コロナウイルスが蔓延すれば、日本の国内で生活している人の人権である生命や身体の安全が害されるわけです。国として、感染の疑いのある人たちを集団で一時的に隔離しなければ、もはや国内での流行を防げない、というような事態になるなど、隔離措置の必要性が日本国内の人たちの人権保護の要請から合理的であると考えられる状況になれば、憲法上許される、とされる可能性はあるのではないでしょうか」

プロフィール

作花 知志
作花 知志(さっか ともし)弁護士 作花法律事務所
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。

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