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2020年01月31日 11時35分

相模原殺傷事件「弁護人を解任したい」被告人だけで刑事裁判はできるのか?

相模原殺傷事件「弁護人を解任したい」被告人だけで刑事裁判はできるのか?
事件が起きた津久井やまゆり園(2016年7月29日・弁護士ドットコム撮影)

神奈川県の障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が殺害された事件で、殺人などの罪に問われている元職員の植松聖被告人(30)が、弁護人を解任して自分だけで裁判を受けたい趣旨の発言をしていると報じられた。

TBSニュースによると、植松被告人は1月22日にJNNの面会取材に応じた際、「1人で裁判を受けたい」「弁護人を解任したいと思っている」などと話したとされている。

1人で裁判を望む理由として、植松被告人の弁護人が心神喪失による無罪を主張しているが、自分としては心神喪失とは考えておらず、「弁護人の考えと私の考えが正反対」だからと説明したという。

刑事事件の裁判では、弁護士資格を持つ弁護人がつくことが一般的だが、被告人は自分の主張に反する弁護人を解任することはできるのか。刑事事件に詳しい星野学弁護士に聞いた。

●殺人事件では必ず弁護人が必要

弁護人の解任について論じる前に確認しておくことがあります。

まず、殺人事件では弁護人なしで裁判することはできません。刑事訴訟法289条1項は「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない」と定め、この場合を「必要的弁護事件」といいます。本件では必ず弁護人が必要となり、被告人だけで裁判はできません。

●私選と国選で異なる

弁護人の解任については、いわゆる私選弁護人か、国選弁護人であるかで結論が異なります。

まず、私選弁護人の場合は、被告人が自分で選んだ弁護人ですから、被告人の意思で弁護人を解任できます。特に弁護人が自分の主張に反する弁護活動をして困っているという理由は必要ありません。

私選弁護人の普通の解任方法は、弁護人を解任する届けを裁判所に提出します。もっとも、被告人から「弁護人に辞めてもらいたい」と告げられた弁護人が裁判所に辞任届を提出する場合も解任をしたのと同じ結果になります。

●国選弁護人の解任は?

これに対して国選弁護人の場合、弁護人を選任するのは裁判所です。選任方法は、一般的には被告人が国選弁護人をつけてくれるように裁判所に請求します。

しかし、被告人の請求がなくても、裁判所が必要と認めるときには被告人の意思とは無関係に国選弁護人がつけられます。国選弁護人の場合、自分で選んだ弁護人ではないので、被告人は勝手に弁護人を解任できません。解任するかどうかは弁護人を選任した裁判所が決めることになります。

●国選弁護人を自由に解任できてしまうと

被告人が、私選弁護人の場合と同じように国選弁護人を自由に解任できるとすると不都合が生じます。

極端な例ですが、仮に必要的弁護事件で国選弁護人が選任されても裁判中に解任、次の国選弁護人が選任されてもまた解任、その次もさらに解任、と解任行為を繰り返すことで意図的に裁判が開けない状態を作り出せてしまいます。

したがって、国選弁護人の場合には被告人は弁護人を勝手に解任できないのです。

もっとも、自分が無罪を主張しているのに弁護人が有罪を認めようとしているような場合など、弁護人の弁護活動が被告人の意思に反し、あるいは被告人にとって不利になるような場合にも被告人が弁護人を解任できないとすると問題が生じます。

そこで、このような場合には、被告人としては裁判所に「この国選弁護人を解任してください」という申出をすることができます(一般的には「国選弁護人解任の上申書」などを裁判に提出します)。この場合、裁判所は被告人の申出の内容を検討し、被告人の申出に正当な理由があると判断すれば国選弁護人を解任して新たな国選弁護人を選任します。

●弁護人と被告人の主張対立

この事件では弁護人が心神喪失を理由とする無罪を主張し、被告人は心神喪失ではないと主張しており、弁護人と被告人との主張が対立しているようです。

しかし、弁護人は単なる被告人の代理人ではありません。弁護人は被告人の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動に努めることが求められます(弁護士職務基本規程第46条)。

被告人の主張通りの弁護活動をしたのでは被告人の権利及び利益を擁護できないと判断される場合には、弁護人が被告人の主張に反する活動をすることも許されると考えられます。

●相模原殺傷事件における解任の結論

今回、弁護人は、心神喪失を主張することで無罪あるいは心神耗弱状態と認められて死刑を回避できる可能性があり、他方で被告人の主張通りに心神喪失ではないと主張すれば死刑となる可能性が大きいと考えたのでしょう。

そうだとすれば、弁護人は被告人の権利・利益を擁護するために最善の弁護活動を行っていることになりますから、当該弁護人が国選弁護人であれば、被告人が裁判所に解任を求めても裁判所は解任の正当な理由はないとして弁護人を解任しないと考えられます。

特に心神喪失を主張する事案の場合、典型例は妄想に支配されて犯罪を行った場合では、自分が犯行時に心神喪失状態だった、すなわち妄想に支配されていたと認識・理解していること自体が心神喪失状態と矛盾することが多いはずです。

したがって、本件のようなケースでは、弁護人による心神喪失の主張と被告人の心神喪失を否定する主張とが対立することは少なくありませんので、被告人に国選弁護人がついていた場合、たとえ被告人が望んでも弁護人が裁判所から解任される可能性は小さいと思います。

なお、必要的弁護事件ではない場合、理論的には弁護人が選任されずに被告人だけで裁判を進めることができますが、この場合であっても、裁判所は刑事裁判の手続の適正を確保するために弁護人を選任するのが一般的であると思います。

取材協力弁護士

星野 学弁護士
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。

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