2019年10月10日 08時02分

人身事故をスマホで撮影する人々、「モラル」だけでなく法的問題はないの?

人身事故をスマホで撮影する人々、「モラル」だけでなく法的問題はないの?
写真はイメージです(Graphs / PIXTA)

東京・JR新宿駅で10月2日に起きた人身事故で、利用客がその様子を写真で撮影しようとして問題になったと報じられています。共同通信などによると、救出作業のために現場を覆っていたブルーシートの内側にスマートフォンを突っ込んで撮影しようとする利用客が複数いたといいます。

こうした行為に対し、JR東日本の駅員は「お客様のモラルに問います。スマホでの撮影をご遠慮ください」という異例の呼びかけを繰り返したそうです。人身事故では、男性が山手線の線路に横たわり、電車と接触して亡くなったと報じられています。

この事故では、駅員がスマホで撮影する人たちに対して「モラル」を問いただしていましたが、モラル以外にも問題はないのでしょうか。甲本晃啓弁護士に聞きました。

●駅の業務を妨害したとして業務妨害罪にあたる可能性も

駅構内でJR職員の制止にも関わらず、事故に遭った人を撮影し続ける行為に、法的問題はないのでしょうか?

「今回のケースのようにブルーシートなどで遮蔽措置が施され、現に救助活動が行われている場合、撮影行為は、2つの意味で法的に問題となる可能性があります。

第1は、事故にあった本人に対するプライバシー侵害にあたる可能性です。プライバシーの権利は判例上認められてきた人格的な権利で、他人にプライベートな空間をみだりに垣間見られない権利と言い換えるとわかりやすいと思います。

わかりやすいプライバシー侵害にあたる例としては、住宅などプライベートな空間の『盗撮』です。もちろん、駅などの公共の空間では、人に見られることはやむを得ないので、プライバシーに対する法的保護は限定的なものです。

しかし、公共空間とはいえ事故現場がブルーシートなどの物理的な遮蔽措置が取られている場合はプライベートな空間と同じように評価できる場合もあるので、スマートフォンをその中に差し入れて撮影することはプライバシー侵害にあたる可能性があります。

第2には、業務妨害罪にあたる場合が考えられます。鉄道職員は、鉄道業務を妨害する行為に対して、鉄道職員は、施設管理権に基づいて、駅構内で許可を得ない演奏や演説を禁止できるのと同じように撮影も禁止することができます。

駅員に制止をされても撮影をするようであれば、駅の業務を妨害したとして犯罪処罰を受ける可能性があります」

●もしも、写真をSNSで拡散したら…

万が一、人身事故を撮影した写真をSNSなどネットで拡散した場合(利用規約で削除される可能性は高いと思いますが)、事故被害者の家族から損害賠償請求を受けることはあるのでしょうか?

「プライバシーは生存する個人に対して認められる権利です。即死の場合を除けば、プライバシー侵害に基づく本人の損害賠償請求権は相続されますので、遺族から請求を受けることはあるでしょう。

また、プライバシー侵害にあたるかどうかは別として、遺体の写真や動画を公開した場合には、亡くなった本人に対する遺族の敬虔な感情を害するものですから、民事上の不法行為にあたるとして、損害賠償請求を受けることがあると考えられます。なお、リツイートやシェアして拡散した場合も同様です」

●「今後、厳しい規制の議論の可能性もある」

今後、このようなケースが続けば、どのような影響が出ると考えられますか?

「まず、ブルーシートなどで事故現場を目隠ししているのは、救助現場では、衣服を裁断したり、場合によっては救出のために体の一部を切断する処置をしたりする場合もあるので、被害者と救助活動へ配慮する意味があります。また、現場が生々しい状態にあることも想像に難くありません。

被害者のプライバシーの問題とあわせ、居合わせた駅利用者に不用意に精神的なショックを与えないために設けられているものです。言うまでもありませんが、このような状況をみだりに撮影することはモラルに反しています。近年、モラル上強く批難を受ける行為には、可能な刑罰法令を積極的に適用して起訴する傾向にあることも、十分に認識しておくべきです。

また、現在はSNSで遺体の写真や動画を拡散することは民事上の損害賠償の対象でしかありませんが、社会問題となれば、刑事罰を課すための立法が検討されると思われます。というのは、我が国は遺体を『仏様』というように、誰しも死者への敬虔な感情を持ち合わせています。

そのような国民一般の感情を保護することを目的として、物理的に遺体を損壊する行為は死体損壊罪(刑法190条)として処罰されますが、遺体の写真や動画をインターネットで拡散する行為もこのような目的に反しているため、刑罰法令をもって規制する必要があるのではないかという議論が起きる可能性があります」

取材協力弁護士

甲本 晃啓弁護士
東京・日本橋兜町に事務所を構える理系弁護士・弁理士。鉄道に関する造詣が深く、鉄道模型メーカーの法律顧問を務める。著作権・商標権が専門。企業法務を中心としつつ、インターネットでの法律相談を精力的に行っている。
事務所URL:http://komoto.jp

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