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障害者を襲う「性暴力」の三重苦 被害にあっても「訴えられない」「支援受けられない」
フラワーデモの模様(東京都内、有馬知子撮影)

障害者を襲う「性暴力」の三重苦 被害にあっても「訴えられない」「支援受けられない」

知的や発達障害を持つ人は、障害に付け込んだ性暴力に襲われることが多いにもかかわらず、法廷では証言が信用されづらく、加害者の起訴にすら至らないこともしばしばだ。障害ゆえに、司法の場で不利な立場に立たされるのはおかしいと、弁護士や支援者らは訴える。(ジャーナリスト・有馬知子)

●父親が軽度の知的障害を持つ娘に…

今年3月、性暴力被害に関する裁判で4件の無罪が相次ぎ、大きな話題となった。以後、判決を不当と訴える市民の「フラワーデモ」が毎月実施されている。

4件のうちの1件は、父親が軽度の知的障害を持つ長女(当時12)をレイプしたとして、強姦罪(起訴当時)に問われたケースだ。

静岡地裁の判決は、性暴力そのものに関する長女の証言について「全体として、具体的と評価できる」とした。しかし被害日時に関する証言が「毎週金曜日」「週に3回程度」と変遷したことなどから「供述は信用できず、犯罪があったとは認められない」と結論付けた。

性暴力被害者の弁護経験が豊富な寺町東子弁護士によると、知的障害があると、過去に起きたものごとの日時や場所を、正確に記憶するのが難しいという。

寺町弁護士は「被害の有無という本筋から離れ、時間的な記憶のぶれという知的障害の特性を無視して、供述全体の信用性が否定されたのではないか」と話す。

検察側によると、長女は親から離れて一時保護されている期間中、児童相談所の職員に性被害を打ち明けたという。告白したのは帰宅予定日の前日で、彼女は顔面蒼白で毛布にくるまり、おびえた様子を見せていたとされる。

検察側はこうした長女の様子も「実際に被害を体験した人の態度として自然だ」などと主張。判決を不服として控訴している。

●「何をされたかわからない」「被害を訴えられない」

発達や知的な障害を持つ人が、性犯罪に巻き込まれやすいことは、支援現場では昔から「定説」となっている。内閣府が2018~19年にかけて、若者の性暴力支援を担う相談機関にヒアリングしたところ、全268件の事例のうち少なくとも70件は、被害者が何らかの障害を抱えていると推測された。

東洋大の岩田千亜紀助教(社会福祉学)によると、WHOは2012年、精神疾患や知的障害のある子どもたちが、健常の子どもと比べて4.6倍、性暴力被害に遭うリスクが高いとの論文を発表。さらに障害者の場合、表に出ない被害も健常者以上に多いとみられる。自分が何をされたかすら認識できず、被害を訴え出られないケースもあるためだ。

認識がなくとも、被害者は健常者と同じように、心身に大きなダメージを受ける。

杉浦ひとみ弁護士によると、ある重度の知的障害を持つ女性は、障害者施設から帰宅後に「嫌な事があった」と母親に訴え、被害が明らかになった。女性はその後たびたび、不眠やパニックに襲われるようになり「症状を抑える薬のせいもあって体がボロボロになり、生活が立ち行かなくなった」(杉浦弁護士)。

このケースも、被害証言から加害者を特定するのは難しいとして、起訴は見送られた。

●「障害者は3重の負担を背負っているのです」

知的な遅れのない発達障害にも、付け込まれやすい特性がある。

発達障害当事者の金子磨矢子さん(発達・精神サポートネットワーク前理事長)は「発達障害者は空気を読めず、言葉を額面通り受け取ってしまう人が多い。『夜ホテルの何号室に来るように』と言われても、怪しまず従ったり『(性的なことは)何もしない』という言葉をうのみにしたりして被害に遭う」と指摘する。

「ダメだ」と言われ続けて育つ中で、自己肯定感が低下し、嫌な行為を拒否する力が弱いことも、性暴力を助長するという。

また、性暴力被害者を支援するNPO法人「しあわせなみだ」の中野宏美理事長は「障害者は、健常者に比べると被害からの回復も遅れがちだ」と指摘する。

被害者のワンストップセンターなどの支援機関は徐々に整備されつつあるが、障害者の相談に対応する体制は限られ、なかなか支援にたどり着けないためだ。早期治療を受けられず、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するケースも多いという。

杉浦弁護士は言う。「障害者は被害に遭いやすく、加害者が罰されにくく、傷も深いまま癒されない。3重の負担を背負っているのです」

●「本当に実効性のある研修は行われているのか」

日本では2017年、110年ぶりに刑法の性犯罪に関する規定が改正された。その際の付帯決議に、裁判官や警察・検察職員に対して「心理学的・精神医学的知見を踏まえた研修」を実施することも盛り込まれた。

しかし寺町弁護士は「改正後1年半たっているにもかかわらず、被害者の通常の反応を踏まえたのか疑問の残る無罪判決が相次いだ。本当に実効性のある研修は行われているのか」と疑問を呈する。

日本の刑法性犯罪規定は、必要な場合は施行後3年をめどに見直しを行うとしている。「しあわせなみだ」は、刑法性犯罪に障害者規定を盛り込むべきだとして、大阪、福岡、鹿児島など全国各地でシンポジウムを開いている。

中野理事長は「刑法の見直しには世論の後押しが必要。ハンディを抱えた人を狙う性犯罪の卑劣さ、被害の深刻さを多くの人に知ってほしい」と訴えている。

【ライタープロフィール】
有馬知子(ありま・ともこ)共同通信社記者を経て2018年からフリーランス。主な取材テーマは児童虐待、ひきこもり、性犯罪被害、雇用・労働問題など。

【訂正】寺町弁護士の発言内容につき、一部訂正しました。(6月23日 15時10分)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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