幼児の公園遊びの定番に「ランニングバイク」がある。主に2〜4歳が使うペダルのない二輪遊具で、子どもでも簡単に足で地面を蹴って走行でき、レースが開催されるほど人気がある。バランス感覚が身に付くので、補助輪なしの自転車への移行がスムーズとされている。
が、実はこのランニングバイク、公道では乗ってはいけないことをご存知だろうか。道路交通法の自転車(軽車両)には分類されず、遊具の位置づけで公道は走れない。過去には公道での死亡事故も起きている。
今年2月にも、神奈川県横須賀市の市道で、二輪遊具の4歳男児が、路線バスにひかれて右脚骨折の重傷をおう事故が発生したことも報じられた。
スピードが出るため高齢者など歩行者にけがをさせる恐れもあり、保護者が法的責任を負う可能性もある。子どもが事故にあいそうになった保護者や交通問題に詳しい弁護士に話を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
●「自分の足で制御できないほどスピードが出て電柱に激突した」
ランニングバイクは、ペダルやクランクがなく子どもが足で地面をけって進む。止まる時は足でブレーキをかける。各地でレースも開催されるなど愛好者は多い。公園などで見掛けたことがある人も多いのではないだろうか。
ランニングバイクは道路交通法上の自転車には該当せず、公道では走れない。ランニングバイクの販売元のサイトでも「公道での走行は大変危険なので絶対におやめください」と注意喚起している。また、ヘルメットを必ず装着すること、遊ぶ時は保護者が目を離さないよう呼び掛けている。
だが、実際は公道で子供をランニングバイクに乗せてしまったというケースは少なくない。6歳の子どもがいる男性は「うちは2歳ぐらいから自転車に乗れるようになる4歳ぐらいまで乗っていました。歩くよりも早く移動できて便利だったので公園に行くまでの道路でも使っていましたね。公道を走ってはいけないルールがあることを知りませんでした」と話す。
別の男性も「道路で走ってはいけないことは知っていて、公園までは親が手で持って運んでいました。でも近所のスーパーなど買い物に行く時には乗せてしまったことは結構あります。ダメと言うと子供が泣くので、少しぐらいならいいかなと・・・」と語る。
事故になりそうだったケースもある。2人の子どもがいる女性は「2年ほど前に、公園へ行こうと自宅前で上の子どもと準備をしていました。目を離した間に、当時3歳だった下の子がぱーっとランニングバイクで脱走してしまったんです。普段は電動自転車の前かごにランニングバイクを乗せて公園まで運んでいたのに。慌てて子どもを追い掛けましたが、近所の緩い下り坂で自分の足でコントロールできないぐらいのスピードが出て、制御できず路肩の電柱に激突して転倒しました。ヘルメットを装着していたので頭部などにけがはなく、腕に擦り傷ができた程度でした。歩道のない道路だったので車が走っていたら本当に危なかったと思います」と振り返る。
●一般道路で起きた事故が4割、4歳児が車と衝突して亡くなる事故も
過去には公道でランニングバイクによる事故が起きている。2018年には岡山県倉敷市の市道で、4歳の男児がランニングバイクで下り坂を走行中に、軽自動車と衝突し亡くなる事故が起きた。
消費者庁によると、2010年12月から2018年3月までの約7年間でランニングバイクの事故の情報は106件寄せられている。年齢別では3歳児が43件と約4割で最も多く、2歳児、4歳児はそれぞれ27件、26件とほぼ同数だ。
事故が発生した場所を調べると、走行してはいけない一般道路で起こった事故が50件とほぼ半数を占めた。このうち36件は坂道での事故だ。坂道でスピードを制御できなくなり転倒する事故が多いとみられる。
けがの程度は切り傷や打撲などが9割近く、中には骨折したケースも6件あった。事故の具体的事例を見ると「ヘルメットを装着せず公道で乗っていたが、歩道を走行中に交差点でとまろうとした時によろけて右側に転倒。走行中の自転車のスタンドに右側頭部を打撲し、頭部に切り傷を負い、1針縫合した」(2歳)、「下り坂を走行中、道路のへこみに引っ掛かり、頭から地面に激突しその勢いで前方に1回転した。おでこに切り傷、唇が腫れあがり、左腕と右ひざに擦り傷を負った。ヘルメットは装着していた」(3歳)など、頭部や顔のけがが目立つ。
実際、調査ではけがをした部位は、頭部や顔など首から上が9割近い。消費者庁は「4歳以下は(全身に占める)頭部と顔の割合が高く、重心が頭部寄りで頭から落ちやすいためでは」とみる。
●子どもが歩行者にけがをさせた場合、保護者が責任を問われる可能性も
子どもがランニングバイクで公道を走り、高齢者など歩行者に衝突してけがを負わせてしまった場合、保護者に法的責任は生じるのか。
交通事故の法律問題に詳しい西村裕一弁護士は「ランニングバイクは道路交通法上、自転車には該当せず遊具の扱いです。公道を走ることはできません」とした上で「レースが開催されるぐらいなので、ランニングバイクは相当のスピードが出ます。禁止されている公道で子どもがランニングバイクに乗り、相手にけがを負わせた場合、小さな子どもには民事上の責任能力を負わせることは難しいと考えられますが、保護者が責任を問われる可能性はあります」と話す。
事故の状況によるが、子どものそばに保護者がついていて事故を起こした場合、保護者が監督義務違反に問われて損害賠償請求されることもありうるという。
こうした状況への対応策として、日常生活の中の事故で他人にけがをさせたり、物を壊したりして損害賠償責任を負った時に、賠償金を補償できる「個人賠償責任保険」への加入も方法の1つだ。クレジットカードや自動車保険、都道府県民共済などには個人賠償責任保険のオプションがある。
大前提として、ランニングバイクは何があっても公道で乗せることはダメと肝に銘じたい。西村弁護士は「公園まで行く時は、ランニングバイクを手で押す、荷物を運ぶカートなど入れて運ぶ、保護者が手に持つなど徹底してほしい」と話している。