弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 交通事故
  3. ダイヤモンド・オンライン連載企画/自転車衝突事故時の対応方法
ダイヤモンド・オンライン連載企画/自転車衝突事故時の対応方法

ダイヤモンド・オンライン連載企画/自転車衝突事故時の対応方法

この数年、車道を自動車並のスピードで駆け抜ける自転車を見かける事は非常に多くなった。かつてはメッセンジャー便の専売特許だったが、一般のビジネスパーソンで、プロ仕様の自転車に乗る人が増えている。確かにエコだし、健康にも良い。しかし、自転車が絡んだ衝突事故も増加している。自転車に乗る人は、どのような法的責任があるのだろうか。

●流行る自転車通勤増加する衝突事故

 環境対策や健康増進などを目的に、自転車通勤をするビジネスパーソンは格段に増えた。車と並んで車道を自転車で駆け抜ける姿は、都内ではもはや珍しい事ではなくなった。休日に自転車で遠出する人も多いと聞く。

 それと同時に、今、自転車と歩行者の事故が急増している。交通事故の案件に混じって、筆者の元にも自転車事故の案件が見られるようになった。

 もし、自転車で通勤中、歩行者とぶつかってケガをさせてしまったら……。あるいは、休日にサイクリングを楽しんでいるとき、誤って子どもにぶつかってケガをさせてしまったら……。あなたはどのような責任を負うか、考えてみた事があるだろうか。

 本稿では以下の4つの点を考えみたい。

(1)加害者になってしまったらどうすればいいか

(2)損害額はいくらになるのか

(3)どれくらいの割合で負担しなければならないか

(4)刑事上の責任はどのようになるか

 では早速、具体的に説明を始めよう。

(1)加害者になってしまったらどうすればいいか?

 誤って歩行者とぶつかってしまったら、そのとき、あなたはどのような行動をとればいいのだろうか。

 まず、道路交通法上、自転車は「車両」にあたり(道路交通法2条8号・11号)、車両の運転者は、事故の際直ちに運転を停止して、負傷者を救護する義務、事故を警察に報告する義務を負う(同法72条)。これを行わないと3カ月以下の懲役又は5万円以下の罰金となる(同法119条1項10号)。

 車と違い自転車だから、と軽く考えてはいけない。

 まずは、どんなに急いでいても、相手の状態を確認し、怪我が大きい場合や頭を打っているような場合、真っ先に救急車を呼ぶことが、あなたのとるべき行動だ。そして、事故があったことを警察に連絡することも忘れてはならない。そして、必ず被害者の連絡先を聞くことだ。

 次に、事故現場の状況を写真に残したり、事故状況をメモしたりしておく。もし、被害者側と裁判になった際に、重要な資料となる。事故となれば、誰もが気が動転し、パニックに陥る事もある。その場の状況を正確に記録しておくための手段として、写真やメモは有効だ。

 あとは、救急車と警察が来るのを待ち、警察が来たら事情を説明し、刑事責任、民事責任を負うことになる。

 なお、明らかに自分が悪い場合は、速やかに謝罪することだ。「加害者が謝らない」とか「謝りに来るのが遅い」といったことで、こじれるケースが意外と多いのが現実だからだ。

(2)損害額はいくらになるのか?

 では、自転車で歩行者にぶつかってしまった場合、どれくらいの損害賠償をしなければならないのか。

 「自転車でぶつかったくらい大したことないでしょ?」と思われる方もいるかもしれないが、骨折程度の怪我はよくあり、最悪の場合は、地面に頭をぶつけて死亡している例もある。

 具体的な損害賠償金額は、被害者の怪我の程度によるが、いくつかに場合分けしておおよその金額を見ていこう。

ケース1:被害者が死亡した場合

 主な損害賠償項目として、葬儀費用、死亡逸失利益(その人が得るはずだった収入)、死亡慰謝料といったものがある。この場合、死亡慰謝料だけでも2000万~3000万円程度になる。例えば、大卒30歳会社員既婚男性が被害者の場合、死亡逸失利益も大きく、合計で9000万円程度になることもある。

ケース2:後遺症が残った場合

 後遺症が残った場合の主な損害賠償項目は、治療費、休業損害、後遺症による逸失利益(後遺症があることによって収入が減ることへの保障)、入通院慰謝料、後遺症慰謝料といったものが挙げられる。

 たとえば、転んだ拍子に膝を打ち、1カ月入院、1カ月通院したが、関節が半分以下しか曲がらなくなった場合、後遺障害10級とされ、労働能力は27%程度減少すると認定される。これを先ほどの会社員で考えると、損害額は合計で3500万円程度となる。

 頭を打って体全体に麻痺が残った場合だと、死亡した場合より高額の被害ということもある。

ケース3:1カ月の入院、3カ月の通院の場合

 後遺症にならなかった場合でも、1カ月間入院し、3カ月間通院した場合、治療費のほかに100万円余りの慰謝料を支払わなければならない可能性がある。

(3)あなたの負担額は?

 上記のように、自転車事故といえども高額の損害額となる可能性があるが、実際にあなたが負担しなければならないのは、その事故でのあなたの過失割合分だ。

 とはいっても、もし、事故が歩道上で起きた場合、自転車は、原則として車道を走らなければならず(道路交通法17条1項)、歩道走行が許されている道路でも、自転車には徐行が義務づけられているので(同法63条の4第2項)、過失のほとんどが自転車側に課せられることになるだろう。もっとも、歩行者が急に方向転換してきた場合や、路地から飛び出してきた場合には、歩行者の過失が加算される。

 では、あなたが車道上を走行しており、歩行者が道路を横断しようとして衝突した場合、どうなるのだろうか? このような場合でも、自転車運転者は、歩行者がいることに気付いたのなら気を付けて走行すべきであるという理由で、自転車の過失を80%程度としている裁判例がある。

 これら以外にもさまざまな場合が想定されるが、裁判例では、自転車は歩行者と比べれば危険な乗り物である以上、自転車運転者が気を付けるべきであるという考えから、自転車側の過失割合が多い場合がほとんどだ。

 すなわち、(2)で算出した損害額のほとんどを自転車運転者であるあなたが支払わなければならない。

 損害賠償は、原則として一括で賠償額を支払わなければならないが、これだけの金額を支払えるだろうか? ほとんどの方が無理だろう。このような時のために、自転車によく乗る人は、自転車保険に入ることをお勧めする。または、傷害保険や、火災保険・自動車保険の個人賠償責任特約、クレジットカードの個人賠償責任保険でもカバーできるので、これらの保険加入の有無についても確認しておくべきだ。

(4)刑事上の責任

 最後に、自転車で事故を起こしてしまった場合、どのような刑事上の責任を負うかを解説しよう。

 まず考えられるのは、過失傷害罪(刑法209条1項)だ。過失傷害罪が成立すると、「30万円以下の罰金又は科料」となる。ただし、過失致傷罪は親告罪(被害者が告訴しないと犯罪が成立しない)であるため、事故を起こしたからといって必ずしも成立するものではない。また、軽微な事故であれば、不起訴処分とされている事案も多いものと思われる。

 被害者が死亡した場合は、過失致死罪(刑法210条)となり、親告罪ではなくなり、刑罰も「50万円以下の罰金」となる。

 ほんの少し注意すれば事故が起こらなかったのに、その“ほんの少しの注意”も怠った場合には、より重い重過失致死傷罪(刑法211条1項後段)となり、「5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」となる。

 さらに、お酒を飲んで自転車を運転していて事故を起こした場合で、事故当時、正常に運転できない程度に酔っ払っていた場合、酒酔い運転として、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が加わる可能性もある(道路交通法117条の2・65条)。なお、飲酒運転の危険性から平成13年に追加された危険運転致死傷罪は、「4輪以上の自動車を走行させ」となっていることから、自転車が加害者になる事故には適用されない。

 さらに、事故を起こしたのに逃げた場合、最初に説明した通り、救護義務違反、事故報告義務違反の罪が加わる。

 自転車は免許もなく気軽に乗れる。だが、事故を起こしてしまうと多額の損害賠償責任を負うことがあり、また、刑事罰も受けなければならないこともあるということはぜひ知っておくべきことだ。

 

プロフィール

勝浦 敦嗣
勝浦 敦嗣(かつうら あつし)弁護士 勝浦総合法律事務所
1999年司法試験合格。2000年3月東京大学法学部卒業。01年10月、TMI総合法律事務所入所。05年10月、司法過疎解消のための公設事務所(鳥取ひまわり基金法律事務所)に赴任。10年6月、勝浦総合法律事務所開設(現在所属弁護士5名)。「身近で、頼りになる弁護士」を目指し、残業代請求などの労働事件、交通事故、債務整理などに力を注いでいる。

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする