悲劇を繰り返しても、高齢ドライバーによる事故は後をたたない。
10月には、東京・池袋で2019年4月、乗用車が暴走し12人が死傷した事故の初公判が開かれた。自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で起訴された男性被告人(89)は、起訴内容を否認し、大きな話題となった。
また他にも、10月中旬には、自転車に乗っていた男性(91)をひいて死亡させる事故を起こしたとして、自動車を運転していた男性(87)がひき逃げなどの疑いで北海道警に逮捕された。
内閣府の交通安全白書によると、2019年における75歳以上の運転者による死亡事故の発生割合は、75歳未満の群と比較して2倍以上、80歳以上の運転者にいたっては3倍以上となっている。今後死亡事故を減らしていく上で、高齢ドライバー対策は急務といえる。
●地方で自主返納が進まないワケ「『生活の足』問題」
高齢ドライバー対策の一つとして挙げられるのが「自主返納」だ。免許を返して運転しなければ、交通事故も起こしようがないことから、有力な対策といえる。
警察庁の運転免許統計によれば、池袋での事故が発生した2019年に免許証を自主返納した人は、過去最多の約60万人(前年比約18万増)だった。
フリーアナウンサーのみのもんたさん(76)も、トーク番組『朝からみのもんた』(10月25日放送)で、運動神経の衰えを理由に自主返納したことを明らかにするなど、運転に不安がある高齢ドライバーを中心に、自主返納への意識は高まっていることがうかがえる。
だが、必ずしも自主返納がスムーズに進んでいるとは言いがたいケースもあるようだ。
交通事故問題に詳しい西村裕一弁護士は、「車が生活に必要となれば、やはり簡単には自主返納できないだろう」という。
「東京などの大都市では車がなくても生活できますが、地方都市の場合は車がなければ、買い物に行けない、病院に行けないという問題が生じます。
自主返納を促そうというのであれば、無料でコミュニティバスが利用できるなど、現状の返納による割引サービス以上の施策が必要でしょう。
また、定期的な講習を通じて、事故を起こせば懲役刑も含めた刑事罰を受ける可能性がある旨をきちんと理解してもらうことも大切です」
●強制返納が簡単ではないワケ「年齢決めるのが困難」
高齢ドライバーが事故を起こした際、ネットなどでよく挙げられるのが「強制返納」だ。
自主返納は本人の意思に基づき返すものであるため、心配する家族が返納を促しても本人が返そうとしなければ、基本的にはどうしようもない。そこを「強制」する形でクリアしてしまおうという方法だ。
西村弁護士は「もし強制返納制度を導入するのであれば、法律上の根拠が必要になる」とした上で、そう簡単ではないことを指摘する。
「強制返納制度を法律で定めるなら、免許を取得できる年齢が自動車の場合『18歳以上』と定められているように、『●●歳に達したら免許を返納しなければならない』『●●歳に達したら免許が失効する』という規定を設ける必要があります。
しかし、何歳になると事故を起こす可能性が非常に高く、運転適性がないといえるのかという点について、コンセンサス(意見の一致)を得るのは難しいでしょう」
その上で、現在も行われている対策の厳格化を提案する。
「高齢者の免許の有効期間を1年間とし、現状の高齢者講習を毎年1回受講するようにする、高齢者講習の際の実技試験を厳格化する、といった方法を検討することがまず検討されるべきでしょう」