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2020年07月10日 10時14分

交通事故の逸失利益「毎月の受け取り可能」、最高裁が初判断 総額が大きく変わることも

交通事故の逸失利益「毎月の受け取り可能」、最高裁が初判断 総額が大きく変わることも
最高裁判所(kash* / PIXTA)

交通事故で後遺障害が残ったため得られなくなった収入(逸失利益)につき、毎月分割払いで受け取る「定期金賠償」が認められるかが争われた裁判で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は7月9日、「損害賠償制度の目的および理念に照らし相当と認められるときは、特段の事情がない限り、定期金賠償の対象となる」との初判断を示した。

その上で、原告が求める定期金賠償を認めた二審判決を維持し、上告を棄却した。

後遺障害による逸失利益の賠償方法は法律に明記されているわけではなく、実務上、一括で支払う「一時金賠償」が一般的とされていたため、最高裁の判断が注目されていた。

事故は、原告の男性(17)が北海道の市道を横断している際に発生(当時4歳)。大型トラックと衝突し、高次脳機能障害と診断された。事故に遭わなければ得られるはずの将来の収入分を、一括ではなく毎月一定額支払うよう、運転手や保険会社などに求めて、2015年に提訴していた。

今回の判決は今後の実務にどのような影響を与えるのか。交通事故の賠償に詳しい西村裕一弁護士に解説してもらった。

●一括か分割か、選択次第で受け取る金額が大きく変わる可能性も

もともと交通事故をはじめ、民法の不法行為による損害賠償については、定期金賠償に関する明確な定めはなく、一括で支払いを行う一時金賠償が通常です。

しかしながら、一時金賠償を選択した場合、本来であれば将来的に現実化する損害額を前もって受け取るという形になるため、その点を考慮しなければなりません。この考え方が「中間利息の控除」です。

つまり、今受け取る100円と将来受け取る100円は、同じ100円でも価値が違うのです。

この中間利息を控除する方法として、「ライプニッツ係数」というものを用いています。そして、2020年3月までは民法の法定利率である年5%の利息控除となっていました。たとえば、30年間のライプニッツ係数は15.3725です。

後遺障害逸失利益の計算方法は、一時金賠償の場合、「基礎年収×労働能力喪失率×ライプニッツ係数」となるため、年収500万円で100%の喪失率(今回の裁判で認定された喪失率)が30年間継続するケースで考えると、「500万円×100%×15.3725=7686万2500円」となります。

定期金賠償を選択した場合、中間利息控除はありませんので、30年後の総受取額は、500万円×100%×30年=1億5000万円となります。

このように一時金賠償を選択するか、定期金賠償を選択するかによって、受け取る金額が大きく変わってくる可能性があるのです。

なお、2020年4月からは民法改正により法定利率は年3%に変更されましたので、中間利息の観点からすれば、控除される額は小さくなります。しかしながら、それでも今の銀行金利からすれば、年3%で運用できるというのは正直想定しがたい状況です。

●定期金賠償にもデメリットはある

定期金賠償のデメリットとしては、保険会社が破産した場合に、支払を受けられなくなるリスクがあるということです。

もちろん、加害者本人や自動車を保有している企業にも賠償責任がありますが、基本的に支払を行うのは保険会社です。その保険会社が未来永劫つぶれない保証はありません。定期金賠償がかなり長期的なものになるため、一時金賠償では考えなくてよいリスクが生じます。

また、将来的に平均賃金が上がれば被害者にとっては有利になりますが、逆に今よりも下がってしまえば被害者にとっては受取額が減少するため、この点もデメリットになり得ます。

●最高裁が初判断「後遺障害逸失利益についても定期金賠償の対象になりうる」

定期金賠償をめぐっては、交通事故では主に将来介護費で請求が認められることがありましたが、後遺障害逸失利益については、最高裁がこれまで明確な判断をしていませんでした。

そこで、今回の裁判では、後遺障害逸失利益について、

・定期金賠償が認められるかどうか
・認められるとしてどのような場合か
・被害者が死亡した場合に、支払の終了を被害者の死亡までと設定する将来介護費用の定期金賠償と同様に、支払も終了になるか

という点を、最高裁がどのように判断するかがポイントでした。

この点、最高裁は次のように判示し、後遺障害逸失利益についても将来介護費用と同様に定期金賠償の対象になりうると判断しました。

「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される」

●判決による今後の実務への影響は?

もっとも、具体的にどのようなケースで認められるかは、不法行為制度の目的(被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させること)と理念(損害の公平な分担)に照らして相当かどうかという抽象的な視点のみ示した形です。

したがって、この点については、今後の裁判例の集積によることになりますが、最高裁は今回の事例で被害者の年齢と後遺障害の内容について言及しているため、未成年者で、後遺障害の等級が高いもの(3級以上)については、定期金賠償が認められやすいのではと考えられます。

他方で、むちうちや骨折の痛みによる神経症状の後遺障害(14級)については、定期金賠償を認めるほど長期の賠償になることは考えにくいので、引き続き一時金賠償で対応することになるでしょう。

また今回、最高裁が次の判示のように、被害者の死亡について言及したのは、今後、被害者側が定期金賠償を求める場合に有益といえます。

「後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずる場合においても、その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したからといって、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるべきものではないと解するべきである」

つまり、一時金賠償と同じく、交通事故の時点で余命宣告を受けていたとか死因となる疾患がすでに存在し、近い将来死亡することが予測されない限り、定期金賠償にも影響はないと明言したことで、被害者家族としては、偶発的な裁判後の死亡は原則影響がないものとして請求をすることができるようになったといえます。

取材協力弁護士

西村 裕一弁護士
福岡県内2カ所(福岡市博多区、北九州市小倉北区)にオフィスをもつ弁護士法人デイライト法律事務所の北九州オフィス所長弁護士。自転車事故も含め、年間100件以上の交通事故に関する依頼を受けており、交通事故問題を専門的に取り扱っている。

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