1万1270件――。国内で2011年に発生した「ひき逃げ」の件数である。犯罪白書によると、そのうち死亡事故は181件。その検挙率は9割を超えているが、1割ほどは犯人が検挙されていないままなのだ。重傷や軽傷の事故になると、検挙率はさらに落ちることになる。
ひき逃げで、しかも犯人が捕まらなかった場合、気になるのが、損害賠償がきちんと行われないのではないかということだ。事故を起こした加害者が分かっていれば、自賠責保険や任意保険で治療費や慰謝料が支払われることになる。
しかし、加害者が逃げたままのときは、どうすればいいのだろうか。請求すべき相手がわからない以上、泣き寝入りするしかないのか。交通事故にくわしい冨宅恵弁護士に聞いた。
●交通事故の被害は「加害者」が賠償するのが原則
「交通事故による被害は、加害者が契約している自賠責保険や任意保険によって補てんされるのが原則です。
しかし、保険の適用を受けるには、『加害者が特定されていること』が前提となります。
したがって、加害者を特定することができないひき逃げの事例では、加害者が契約する自賠責保険や任意保険から支払いを受けることができません」
事故の賠償は原則的に「加害者」が行う仕組みのため、その加害者が誰だかわからない場合、とたんに厳しい事態となるようだ。そうした場合、被害者はどんな救済を受けられるのだろうか?
冨宅弁護士によると、相手が分からなくても下りる保険もあるようだが……。
「自動車保険(任意保険)の中には、歩行中や自転車運転中の事故でも保障の対象となる特約が付いているものもあります。もしそうした契約をしていれば、その保険会社に保険金を請求することができます。
この特約は、ひき逃げ等の加害者が特定できない場合だけでなく、加害者が自賠責保険に加入していなかった場合(無保険だった場合)も適用されますので、任意保険に加入される際に検討すべき特約の一つであると思います」
ただし、これはたまたま自分が任意保険の特約を結んでいた場合の話だ。それ以外の方法はないのだろうか?
「もし、通勤中や仕事中の事故であれば、労働災害として勤務先が加入している労災保険に請求することができます。また、労働災害にあたらない場合でも、加入されている健康保険を使って治療を受けることができます」
それでは足りない部分については?
●ひき逃げ被害者に対しては「政府の救済制度」もある
「政府は、自動車損害賠償法に基づいて、ひき逃げや無保険車との事故による損害を補てんする制度を設けています。手続きは、窓口となっている指定の損害保険会社に、必要な書類を提出するだけです」
政府から補てんされるお金は、どれぐらいの額になるのだろうか?
「補てんされる金額の上限は自賠責保険と同一で、傷害の場合には120万円、死亡の場合には3000万円です。後遺障害は、その程度に応じて75万円から4000万円となっています」
冨宅弁護士は、このように万一ひき逃げされた場合に使える制度を紹介したうえで、次のようなアドバイスを送っていた。
「交通事故による被害については、ひき逃げも想定したセーフティネットが整備されており、十分とは言えないものの一定の範囲で被害弁償が行われています。ひき逃げにあわれた場合にもあきらめず、お近くの弁護士に相談するようにしてください」