子どもがもらうお祝いやお年玉などの管理のため、子ども名義の通帳を持っている人は多いだろう。都内の主婦・J子さんにとって、最近いちばん困っているのが「僕の通帳を見せて欲しい」という小学4年の息子からのお願いだ。
見せればいいじゃないか、と思う人もいるはずだ。J子さんはこう弁明する。「やましいことはないです。ただ、子どもが知るには大きな額なので、本人には言いたくないだけなんです」。
本当にそれだけなのか。さらに質問を重ねると、J子さんは「あくまで少額ですが、貯金していない時もあります」と、自分の非を素直に認めた。
J子さんの息子は最近、「僕のお金だよ」と、通帳を見たい気持ちが強まっているそうだ。未成年でも、本人の名義である以上、知る権利があるのか。もし、親がくすねていたことが発覚した場合、親は返金する義務はあるのか。三村雅一弁護士に聞いた。
●親権者の管理権限が認められない財産もある
「民法は、親権者に対し、未成年の子の財産管理権を認めています(824条)。そして未成年の子の財産を管理する親権者には、『自己のためにするのと同一の注意をもって』その管理を行うことが義務付けられています(民法827条)。
なお、親権者による財産管理が不適当であることにより、子の利益を害するときには、管理権が剥奪されることもあります(民法835条)」
未成年の子どもの財産であれば、親がすべてを管理できるのでしょうか。
「未成年の子の財産であっても、例外的に親権者の財産管理権が及ばないものもあります。
たとえば(1)未成年の子が許可を受けた営業に関する財産、(2)親権者が目的を定めまたは定めないで処分を許した財産、(3)第三者が親権者に管理させない意思を表示して未成年の子に無償で与えた財産(民法830条1項)、(4)未成年者の労働契約による賃金請求権及びこれに基づき受け取った賃金(労働基準法59条)の場合です。
(1)から(4)に該当する財産の場合は、親権者にはそもそも管理権限が認められません。そして、親権者の管理権限が及ばない以上、未成年の子にはその財産について知る権利が認められることになるでしょう」
●民法上は「子が成年に達したときに、報告すればいい」
では、(1)から(4)に該当しないものであれば、財産の内容を報告しなくてもよいのでしょうか。
「対象となる財産が上記例外に当たらない場合、財産を管理する親権者が、子に対して管理している財産の内容を報告する義務があるか否かについて、民法828条は『子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない』と定めています。
ここで言う『管理の計算』とは、『財産の管理中に、未成年の子のために取得した収入と支出した費用の計算を明らかにし、子の所有に属する財産を確定し、その結果を子に報告すること』とされています(於保不二雄・中川淳編『新版注釈民法(25)』有斐閣)。
したがって、民法上は、子が成年に達したときに、子に対して管理している財産の内容を報告すればよいことになります」
●親に対する損害賠償請求、「時効は5年」
親が使ってしまった場合には、どうなりますか
「親権者が管理する子のお金をくすねるなど、子に損害を与えたときには、親権者は財産の管理における注意義務(民法827条)に違反したとして損害賠償義務を負うことになり、返金する義務が生じます。
その場合の損害賠償請求権については、民法832条1項の『親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権』にあたるため、親権者による管理権が消滅したときから5年間これを行使しないときは時効によって消滅します(民法832条1項)」