「新幹線の自由席乗車率が100%を超えました」。お盆の帰省シーズンには恒例のニュースだ。
年によっては200%近くに迫ることもある新幹線の乗車率だが、100%を超えた状態とはどういうものか。新幹線における乗車率とは、座席数に対する乗客の割合のことをいう。したがって、100%を越えるということは、席に座らず、通路やデッキに立っている人がいるという状態を表している。
一方で、席に座れないということは、それだけ乗客の安全性は低下するように思える。また、短時間の移動ならともかく、何時間もかかる新幹線で立ち続けることは身体的負担も大きいだろう。混雑が過ぎれば、トイレへの移動も難しいかもしれない。
しかし、鉄道にも「定員」はあるはず。乗車率が100%を超えても許されるものなのだろうか? また、もし新幹線に立ちっぱなしで乗って体調を崩した場合、鉄道会社の責任を問うことはできるのだろうか。鉄道にくわしい岡田一毅弁護士に聞いた。
●鉄道の「定員」は快適さの基準で、オーバーしても法律違反ではない
「同じ『定員』といっても、車や飛行機の定員と、鉄道の定員では性質が違います。自動車や飛行機、船などの定員は『それ以上乗ったら危険』という意味の『保安定員』で、超過することは法律で禁止されています。
一方、鉄道車両の定員は、あくまで快適に乗車できる基準の『サービス定員』と呼ばれるもので、100%を超えて運行をしても法律違反にはなりません」
——それでは、鉄道の場合、ぎゅうぎゅうに、何人でも詰め込める?
「いいえ、限度はあります。鉄道会社と乗客の間には旅客運送契約があり、鉄道会社には乗客を安全に輸送する注意義務があると考えられます」
——「注意義務違反」となるのは、どんな場合?
「あくまで理論上の話ですが、考えられるのは次のようなケースでしょうか。すし詰めの車内で異常に温度が上がり、乗客が熱中症になるような状況だった。鉄道会社がそんな状況を知りながら、それでもあえて客を乗車させた。
こんな場合には『注意義務違反』にあたる可能性があり、たとえば、それで乗客が体調を崩したら、損害賠償責任を負う可能性が、理論的にはあり得ます」
——その言い方だと、混雑で体調を崩した程度で鉄道会社を訴えるのは、現実的ではない?
「簡単ではありません。そもそも、体調を崩したといっても、その原因は様々です。体調を崩した原因が他に考えられる場合、車内状況と相当因果関係があるとはいえないので、損害賠償は認められません。色々な手間も考えると、実際に請求することはなかなか難しいといえるでしょう」
確かに、乗車したせいで体調が悪化したと裁判で証明するのは、相当な手間だろう。この時期は移動も「混雑との戦い」だと考えて、あらかじめ準備したうえで望むべきと言えそうだ。