ポッポ、ポッポ、ポッポーー。東京都心部に勤務する会社員のJ子さんは、職場近くの空き地にたむろする鳩たちをいつも不思議に思っていた。謎がとけたのは、ある日の朝だった。50代くらいの女性が、大きなトートバッグに右手を入れ、パンくずを彼らに与えていたのだ。「後ろめたいのか周りの様子を見ながら、手早くあげ、すぐに立ち去って行きました」。鳩たちは嬉しそうに頬ばっていく。
しかし、その直後、大きなカラス2羽がパンくずをめがけて、空き地に降りたった。すると、信号を渡り掛けていた女性は引き返し、カラスをジェスチャーで追い払うと、空き地に仁王立ちとなって、頭上にいるカラスたちとにらみ合いを始め、鳩たちを守り抜いたのだ。
「その女性だけが餌をやっている訳ではないのでしょうけど、この空き地や周囲には、ふんがいっぱいで、汚く見えます。また、鳩たちが傍若無人に振る舞うのですが、衛生面も気になっています」と、J子さんは話す。
鳩の餌やりは、法律で禁止されていないのだろうか。また、マンションのベランダで勝手に餌付けをしたり、第三者の土地で餌やりをしている人がいた場合、糞による衛生環境の悪化などを理由にして損賠賠償請求はできないのだろうか。鈴木智洋弁護士に聞いた。
●餌やりは法律でどのように定められている?
「野生の鳩に餌やりをする行為を直接に禁止している法律はありません。鳥獣保護法は野生の鳩などを捕獲したり飼育したりすることを禁止していますが、野生の鳩などに餌やりをする行為自体は規制されていません。
なお、一部、条例で野生動物への餌やりを禁止している自治体もあるようですが、まだ、その数は少数にとどまっています」
糞による汚れに悩まされるケースもありそうだが、法的な解決は難しいのだろうか。
「餌やりが原因で鳩が増え、その結果として糞害などが発生することも考えられます。鳩に餌やりをしたとしても、それだけで即違法ということにはならないと考えられますが、継続的に餌やりをしたことによって、具体的な被害の申告があったり、行政から餌やりをやめるように指導されたりしたにも関わらず、餌やりをやめないような場合には、民法上の不法行為が成立する可能性はあります。
その場合、糞害を被った人の損害(例えば、清掃費、修理費等)を賠償しなければならないということになります」
●法的な問題だけではない
なお、鈴木弁護士は次のように指摘する。
「法的には以上の通りとなります。しかし、野生動物に餌を与えると、楽に餌をもらうことに慣れてしまい、栄養状態が良くなったために数が増えてしまうなど、生態系への影響も考えられます。
また、鳩の増加に伴って発生する糞も増えますが、鳩の糞には病原菌も含まれていますので人への感染症の危険性が増大する可能性もあります。
法的な観点だけではなく、生態系や人間の健康への影響という観点から考えても、安易に野生の鳩に餌やりをすることは控えるべきだとも考えられます」