友人に何かを貸していたら、知らない間に売られていたーー。そのような経験をしたことはありませんか。同様の被害にあった人から、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに質問が寄せられています。
相談者(仮名:マサヒコさん)によると、バンドメンバー(仮名:ショウタさん)に自分のドラムを貸していたところ、無断でリサイクルショップに売却されてしまったそうです。そのメンバーにドラムの買い戻しを請求するも、一向に買い戻す気配がなく、投稿者はそのメンバーに何か制裁を加えたいと考えているそうです。
マサヒコさんは、ドラムを直接ショップから取り返すことや、ショウタさんにショップから買い戻させることは可能なのでしょうか。また、もし仮に買い戻しができない場合、借主に対して損害賠償請求をできるのでしょうか。伊藤真悟弁護士に聞きました。
●原則として、貸したものは取り返すことができる
まず、本件は自分の所有物を他人に勝手に売られてしまったという「他人物売買」のケースにあたります。この場合の売買の効力については、本人がその契約が有効だと認めなければ、原則として本人に対してはその効力を生じないことになります。
つまり、貸したものを売られても、原則として売買契約の効力は生じないので、貸主は貸したものを取り返せることになります。
そのため、本件では、投稿者さん(マサヒコさん)が、契約を有効であると認めない場合は、契約は無効となるので、直接ドラムを返せと買主(ショップ)に言えることになります。なので、借主(ショウタさん)に対して買い戻しを請求するまでもなく、直接ショップに対して返還を求めればいいことになります。
●取り返すことができない場合は損害賠償請求に
しかし、買ったものが借り物だと知らずに売買契約を締結した買主(本件の場合ではショップ)の保護も考えなければなりません。
そのため、ショップがドラムはショウタさんの所有物だと信じて購入した場合には、即時取得といって、法律上、ショップがドラムの所有権を取得できることになります。
そうすると、マサヒコさんはショウタさんに対してはドラムを返せといえなくなってしまいます。
では、貸主(本件の場合ではマサヒコさん)は、泣き寝入りするしかないのでしょうか。
もっとも、ショウタさんはドラムを返還する債務を怠ったことになりますし、マサヒコさんの利益を侵害していますので、不法行為も成立します。よって、ショウタさんに対して、ドラム相当額の金銭を請求することは当然できます。
つまり、マサヒコさんは、ドラムこそ取り返せませんが、その代わりにショウタさんに対して賠償を請求することができると言えます。
結論として、まずはショップに返還を求めた上で、ショップに落ち度がないようでしたらショウタさんに対して損害賠償請求をするという流れになるのではないかと思います。いずれにしろ、勝手に人のものを売却した人間に責任がないなんてことはありませんのでご安心くださいね。