日本ではこれまで製造・販売されていなかった「乳児用液体ミルク」が、販売解禁されることになりそうだ。塩崎恭久厚労相は10月18日、「業界団体に対し、規格基準の設定に必要な試験データの速やかな提供を促したい」と述べ、厚労省薬事・食品衛生審議会で検討を急ぐ考えを示した。
読売新聞の報道によると、松本純消費者相も18日、「厚労省での議論を注視し、早急に対応できるように進めたい」と記者会見で語った。
現在、国内で販売されている乳児用ミルクは、粉末だ。そのため、粉末を熱湯で溶かし、赤ちゃんが飲める温度までさました後、哺乳瓶で飲ませる。さらに哺乳瓶の洗浄、消毒が必要になるなど、手間がかかる。その点、液体ミルクはペットボトルなどに入った状態で売られており、吸い口をつければ、すぐに飲ませることができるため、災害時にも活用しやすい。
●販売されていない理由は2つ
しかし、なぜこれまで販売されてこなかったのか? この質問を、厚生労働省と、一般社団法人「日本乳業協会」に聞くと、少々、込み入っていることがわかった。
厚労省の担当者は「現状も販売することはできる」と話す。では何故、現在売られていないのか? その点を聞くと、理由は2つあった。
1つ目は「液体ミルクに関する法律がない」ことだ。2つ目に「現行法では、販売しても『乳児用』と表示できない」ことがあげられる。
「現行の法令では液体ミルクを想定していないため、液体ミルクについての法制度はそもそもありません」(厚労省)。
現状では、液体ミルクに関する規格基準は、食品衛生法に基づく「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年12月27日の厚生省令第52号)に定められていない。そのため、業者が製造・販売に踏み切れない要因になっているようだ。
2つ目の理由である表示については、「現行法でも販売できるのですが、『乳児用』と表示できない」ためだという。厚労省によれば、液体ミルクは「乳児用」「赤ちゃん用」などと表示することはできず、「乳飲料」という表示であれば販売できる。
なぜ表示ができないのか?
厚労省の担当者は、「乳児用食品は『特別用途食品』というカテゴリーに分類される。乳児用食品と表示するためには、特別用途食品であることが消費者庁に認められる必要がある」と話す。
現状では、粉ミルクは特別用途食品の対象だが、液体ミルクのような液状の調整乳は対象とされていないため、乳児用食品と表示することができないのだ。
●業界団体「乳児用と表示できないと、誰のためのものか分からない」
「日本乳業協会」側は「乳児用と表示できないと、誰のためのものなのかが分からない。乳児用の特別用途食品だという表示をしないと販売はしにくい」と話す。
そこで、関係省庁に対して「乳児用の液体ミルクを製造・販売するための法整備を求めている」そうだ。具体的には、厚労省に対しては、乳児用の栄養素を添加できることなどを、また、消費者庁に対しても、乳児用としての表示ができることなどを求めている。
「粉ミルクには、赤ちゃんに必要な栄養素を添加する必要があります。乳児用に限っての食品添加物を入れられるかどうか、乳児用と表示して販売できるかどうかなどの法律整備が必要です。赤ちゃん用の製品ですから、失敗は許されません。安全な商品を発売できるよう、法整備を進めて欲しい」