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女優の「裸画像」合成、「有名税」では済まされない…雑誌出版社の賠償命令確定
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女優の「裸画像」合成、「有名税」では済まされない…雑誌出版社の賠償命令確定

綾瀬はるかさんや石原さとみさんら女優7人が、自身の写真と裸のイラストとの合成画像の掲載をめぐって、雑誌出版社に損害賠償を求めていた訴訟で、出版社側に計560万円の支払いを命じた二審知財高裁判決が6月29日までに確定した。

一審の東京地裁は、「イラストは一見して合成と判別できないほど精巧」「女性に強い羞恥心や不快感を抱かせ、自尊心を傷つける」として、賠償を命じ、二審も支持していた。7人は二審判決の一部を不服として上告受理を申し立てていたが、28日付で不受理が決まり、二審判決が確定した。

報道によると、問題となった雑誌には、訴えた7人を含む20人超の女性芸能人の合成画像が掲載されていたという。このような性的な画像と有名人の顔写真の合成画像は「アイコラ(アイドル・コラージュ)」と呼ばれ、ネットにも幅広く出回っている。アイコラの掲載にはどんな問題があるのだろうか。最所義一弁護士に聞いた。

●芸能人は「セクハラ表現」を受忍しなくてはならないのか?

今回の裁判では、著名人が持つパブリシティ権(氏名・肖像のもつ顧客吸引力を排他的に支配する権利)の侵害は否定されたものの、氏名権・肖像権・名誉感情に対する違法な侵害があったことが認められました。

判決では、記事の掲載が「その意に反する性的な嫌がらせに当たるとも言うべきもの」と認定されています。つまり、いわゆる「セクハラ表現」であることが認められたわけです。さらに、「その肖像を無断で使用された女性にとっては、自らの乳房や裸体が読者の露骨な想像(妄想)の対象となるという点において、強い羞恥心や不快感を抱かせ、その自尊心を傷つけられるものであるということができる」とも判示しています。

一般的に芸能人には「有名税」があると言われます。しかし、たとえ芸能人の「容貌や姿態等は公衆の関心事であり、その芸能活動に関し、自らの意図とは異なる態様でマスメディアに取り上げられることも、一定程度は受忍すべきであると考えられる」(本判決文)としても、「セクハラ表現」を受け入れなければならない理由はありません。芸能人であっても普通の人間で、一般人と同じ気持ちや感覚を持っているわけですから。

今回の判決では、受忍すべき範囲が広いとされている芸能人に対しての名誉感情侵害が認められています。逆に言うと、一般人のわいせつな合成画像をネットに投稿したような場合には、受忍すべき範囲云々は問題となりえませんから、同じようなことがあった場合、権利侵害性が否定されることは考えにくいと思います。

●合成の「精巧さ」は判断材料になるか?

判決では、「女性芸能人が自らの乳房を露出しているかのような印象を、読者に与える可能性を否定することはできない」と判示しています。合成したイラストの精巧さも、名誉感情を侵害する理由になったと言えるでしょう。いわゆる「アイコラ」に関しては、刑事事件で有罪とされた事例もあります。このときも、アイコラ画像が精巧であったことが考慮されています。

なお、仮に性的な画像でなかったとしても、その人の社会的評価を低下させるような画像を作成すれば、名誉権侵害は問題となります。例えば、タバコを吸わない芸能人が禁煙区域で路上喫煙している画像を合成して、あたかも条例違反をしているような印象を与えた場合は、名誉毀損表現に該当するといえるでしょう。

勝手に他人の合成画像を作成し、ネットなどで公開すると、厳しく責任を問われる可能性がありますので注意が必要です。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

最所 義一
最所 義一(さいしょ よしかず)弁護士 弁護士法人港国際法律事務所湘南平塚事務所
東京大学農学部農業工学科(現生物・環境工学専攻)を卒業後、IT技術者や病院事務職(事務長)を経て、弁護士に。一般企業法務や知的財産問題のほか、インターネット関連のトラブルの解決に精力的に取り組んでいる。

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