18歳未満の少年少女との性行為を禁止する、いわゆる「淫行条例」がなかった長野県で、処罰規定を盛り込んだ条例を制定する動きが強まっている。阿部守一知事は2月1日、子どもを性被害から守るための条例制定の方針を示した。
長野県はこれまで、県民運動で「条例化によらない青少年の健全育成」を目指してきた。しかし、近年のインターネットの普及によって、未成年をとりまく環境が変化したことを問題視。2013年から有識者検討会を設けて、条例制定について検討してきた。
昨年9月につくられた「条例案のモデル」によると、18歳以上の者が、18歳未満の少年少女の判断力の未熟さにつけ込むなどして性的行為をした場合、2年以下の懲役などの刑罰を科すとしている。県の次世代サポート課によると、このモデルに沿いながら、2月中旬までに条例の骨子案を県議会に提出する予定という。
長野県の条例制定の動きについて、児童買春・ポルノの問題にくわしい奥村徹弁護士に聞いた。
●「条例案のモデルは保護法益の検討すら中途半端だ」
「現在、全国で長野県だけが『淫行処罰規定』がないため、他府県から青少年と淫行するために来県する人もいると思われます。そんな規制の抜け穴をふさぐという効果は期待できると思います」
奥村弁護士はこのように条例制定のメリットを述べる。そのうえで、今回の「条例案のモデル」の問題点を次のように指摘する。
「一般に、淫行の罪の基本的な保護法益は『青少年の健全育成』と解釈されています。被害者の告訴が不要な『非親告罪』であるため、青少年本人よりも保護者の意向が重視される傾向があります。
公開されている条例案のモデルは、他府県の条例を参考にしながらも、文章を寄せ集めただけで、保護法益の検討すらも中途半端に終わっている印象があります。
また、この条例案には次のような文言があります。
『何人も、子ども(18歳未満の者)に対し、威迫し、欺きもしくは困惑させ、またはその困惑に乗じて、性行為またはわいせつな行為を行ってはならない』
この『威迫』『欺罔』『困惑』という要件の部分ですが、これらの概念が明確ではありません。この部分を強調しすぎると、強姦罪・強制わいせつ罪になって、条例の守備範囲を超えることになるので、解釈が難しいでしょう。
したがって、同じような条例の大阪府や山口県を見ればわかるように、検挙実績はあまり期待できないと思います」
●「冤罪が生まれるおそれがある」
ほかに問題点はあるだろうか。
「たとえば『威迫』『欺罔』『困惑』という要件は、青少年の『威迫されました』などの供述によって立証されると思われますが、青少年は捜査員に誘導されやすい傾向にあります。
また、保護者が交際に反対した場合、青少年は保護者の意向に沿って、事実を曲げて、被害者的供述をすることがあります。したがって、冤罪(えんざい)が生まれるおそれがあります。
さらに、たとえば17歳と18歳のカップルの場合、18歳にのみ罰則が適用されることになり、青少年の健全な恋愛が萎縮するおそれがあります。
おそらく、条例には『子どもの年齢を知らないことを理由として、処罰を免れることができない』という条項が入るものと思われますが、インターネットを媒介して行われる一回性の性的行為に際して、一般人にここまで重い年齢確認義務を課すことができる根拠が不明です」
奥村弁護士はこのように述べていた。