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「取り調べ可視化、10年前は夢みたいな話だった」日弁連会長が2015年を振り返る
村越進・日弁連会長

「取り調べ可視化、10年前は夢みたいな話だった」日弁連会長が2015年を振り返る

安保法案の成立、司法試験をめぐる問題など、2015年は、司法をめぐる大きなトピックがいくつもあった。そんな動きのなか、日本弁護士連合会(日弁連)は会長声明や意見書を通じて、社会に様々なメッセージを発信してきた。弁護士ドットコムニュースは日弁連の村越進会長に単独インタビューを行い、注目すべきトピックを中心に「2015年の振り返り」を聞いた。(取材・構成/並木光太郎)

●刑事訴訟法の改正案提出は画期的

ーー最も印象に残ったトピックはなんでしょうか。

刑事訴訟法の改正案が国会に提出されたことです。この法案は、結局、今国会での成立は見送られてしまいましたが、国会に法案が提出され、衆議院を通過したことだけでも、非常に大きな一歩です。この中に含まれている取り調べの可視化は、10年前には夢みたいな話でした。司法制度改革審議会でも、「将来そんなこともあるかな」という扱いでしかありませんでした。改正案の提出は画期的だと思います。

それだけではなく、改正案には、被疑者国選弁護の拡大や証拠リストの開示など、多くの改革が入っています。通信傍受の範囲が拡大することや、司法取引の導入など、批判を受けている点もありますが、濫用や人権侵害が起きないよう、弁護実践も含め取り組む必要があります。全体としてみれば、のちのち、歴史的に大きな変化をもたらしたと評価されるような法案です。

ーー日弁連の活動としては、どのようなことが印象に残っていますか。

民事司法改革について、最高裁と日弁連とで非常によい協議ができたことがあげられます。日本の民事裁判の制度は、以前から「利用しにくい」と言われてきました。原因はいろいろありますが、一つ挙げると、強制執行の制度の使いにくさです。

たとえば、AさんがBさんに対して、貸したお金の返還を求めて裁判を起こして、裁判所から「BはAに1000万払いなさい」という判決を勝ち取ったとしましょう。判決は、そのままではただの紙切れです。強制執行をして、実際にお金が戻ってきて、ようやく意味があります。

しかし、今の制度では回収する手段が限られています。せっかく裁判で勝ったとしても、お金は取り戻せず、泣き寝入りというケースも少なくありません。こうした点を改善して、民事裁判をもっと役に立つものにしたいと考えています。

どのような制度にすべきか、最高裁と協議を重ねてきました。今後は、協議の内容をまとめて、法改正について法務省とも協議していきたい。

●法律家団体として、言うべきことは言っていく

ーー秋に成立した安保法制についても、日弁連は反対声明を発表するなど活発に動いてきましたが、どう振り返りますか。

衆議院の憲法審査会で、早稲田大学の長谷部恭男教授をはじめ、3人の憲法学者が「この法案は違憲だ」と明言したことが、一番印象的でした。あれで世の中の雰囲気がすごく変わりました。学者や元裁判官は本来、表に出て発言をする人たちではありません。そのような人たちが、「この法律は憲法違反だ」と、表に出ていったのは、本当に大きなことです。法案に対する国民の関心を大きく高めたと思います。

ーーしかし、結局、法案は成立してしまいました。

憲法違反である以上、今回の法律ができてしまったのだから、「成立したからそれで終わり」というわけにはいきません。法律家団体として、今後も憲法上の問題点や国会審議の過程で明らかになった問題点をまとめて、国民にわかりやすく伝えていきたいと思います。

ーー日弁連が強制加入団体であることから、特定の法案や制度について賛否の態度を示すのはいかがなものかという声もあります。どのように考えていますか。

たしかに、日弁連は強制加入制の法律家団体ですが、その使命は、人権を守ることです。特定の政権・政党に、賛成や反対をしているわけではありません。人権を守るためには、平和でなければならないし、立憲主義も守られなければなりません。そこが危うくなるような事態については、法律家団体として、最低限言うべきことは言わなければならないと考えています。

安保法案については、『立憲主義を壊してはいけない』というのが、日弁連としての最大公約数だと考えています。いろいろな意見の人がいると思いますが、ここは一致してやられなければならないと考えています。

●数だけ追求しても社会のニーズに応えられない

ーー法科大学院の統廃合が続き、法曹を目指す人が激減しています。こうした現状をどう見ていますか。

法曹をめざす若者を増やすことが大切です。

法科大学院の数や、入学人数をもっと絞って、当初言われていたように「真面目にやれば、7割〜8割が受かる」という司法試験にしなければならないと思います。また、弁護士の就職難も深刻な問題です。時間とお金をかけて司法試験に受かっても就職できないような状態だと、やはり法曹を目指す人は増えないでしょう。そう考えると、合格者はやはりすみやかに1500人にするべきと考えています。法科大学院生・司法修習生の経済的負担の軽減もきわめて重要です。

ーー合格者数をもっと増やして、自由競争に任せればいいのではないかという意見もありますが、どう考えますか。

もともとの「合格者3000人を目指す」という閣議決定は、そういう方向性でした。ですが、新司法試験が始まったこの10年で、それは間違いだったということが明らかになりました。質を考えることなく数だけ追求すると、かえって世の中にとってマイナスとなるのではないでしょうか。ふつうの業界であれば、良貨が悪貨を駆逐して、ダメな人はいなくなると言えるかもしれないが、弁護士業界はそう簡単なものではないと考えています。

ーー法科大学院を修了しなくても司法試験を受けることができる「予備試験」の合格者が増えていますが、どう見ていますか。

「予備試験を突破して司法試験に合格するのが、エリートコース」といったことも言われていますが、そこから受かる人がどんどん増えていくのがいいことなのかは疑問です。

知識詰め込み型の一発試験の弊害が指摘されて法科大学院制度ができたのだから、あくまで法科大学院を基本に考えるべきです。予備試験は、法科大学院に行く経済力がない人や、社会経験があるから法科大学院に行かなくてもいいという人のための、例外的な枠だったはずです。いまは「ショートカットコース」として捉えられている面がありますが、あるべき姿とは違います。

<了>

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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