夫婦別姓を認めない民法の規定は、憲法が保障する「婚姻の自由」を侵害しているなどとして、5人の男女が国に損害賠償を求めていた裁判で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は12月16日、夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲とする初の判断を示した。
最高裁は、夫婦が同じ名字を名乗ることは社会に定着しており、家族の呼称を一つに定めることは合理性が認められるなどとして、夫婦同姓を定めた民法750条は憲法に違反しないと判断した。15人の裁判官のうち、合憲と判断した裁判官が10人、違憲と判断したのが5人だった。5人の中には、女性裁判官3人がふくまれていた。
今回の判決のポイントはなんだったのか。今後、どうあるべきなのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
●司法府の判断としては限界がある
「私自身としては、選択的夫婦別姓制度は、制度としてはあり得ると思います。ただ、世論の動向等をみる限り、本件判決の結論自体はあり得るものであろうとも思っています。
そして、一法律家としては、後に述べるとおり、権力分立の観点からは、司法府の判断としては限界があり、制度を変えたいのであれば立法府に訴えかける必要があると思います」
神尾弁護士はこのように述べる。
「判決を理解する上で、まず押さえる必要があるのは、本件の訴訟は、『立法不作為の違法』を理由とした国賠法上の損害賠償請求であるという点です。
『立法不作為の違法』というのは、簡単にいえば『立法しないと違法ですよ』ということです。本来、立法は立法府である国会の仕事です。司法府である裁判所が、立法府に対して『立法しないと違法ですよ』と宣言することは、権力分立に抵触するおそれがあります。そこで、最高裁は、今までも『立法不作為の違法』について抑制的に判断してきたといえます。
したがって、本件訴訟では、(1)民法の規定が憲法に反するか、(2)違憲だとして、それが立法府にとって明白なのか、(3)明白だとして、正当な理由なく長期間立法措置を怠ってきたか、などの諸条件をクリアして初めて原告の主張が認められるという枠組みであるといえます。
そして、本件判決の多数意見は、このうちの(1)のレベルの話、すなわち憲法に反しないと判断したといえます。なお、『女性判事は違憲と判断した』との報道がありますが、これは(1)のレベルの話で、(2)(3)を考慮して、損害賠償の請求自体は認めていないことには注意が必要です」
●合憲の理由づけとして、弱い部分もある
憲法違反ではないとした理由づけについては、どう考えているだろうか。
「今回の判決で、『婚姻の際に氏の変更を強制されない自由』については、そもそも憲法上の権利ではないとしています。この点については、やや疑問があります。誰しも、自分の氏には愛着があるものです。『氏の変更を強制されない自由』自体はあって、現行制度(夫婦同姓制度)が『強制』か否かを判断するというスタンスもあり得たと思います。
また、最高裁は、(主として女性の)氏を変えることの不利益については、婚姻前の氏を通称として使用することが広まることで一定程度緩和されると判断しています。ここは、もう少し丁寧な判断をしてもらいたかったと思います。
公務や銀行手続等、通称使用ができない場面があるからです。不利益そのものは正面から受け止め、それが受忍すべきものなのか、制度として致し方ないものなのかまで踏み込むべきだったと思います。
最後に、同姓は嫡出子であることを示す役割があること、同姓だから家族であることを実感できることなども理由に挙げ、現行制度は合理的であると述べています。ここも、理由づけとしては弱いと思います。家族の在り方は多様化しているからです。
以上のとおり、結論自体はあり得るものだとしても、主に女性が負ってきた不利益や社会の変化等について十分検討されているかは疑問も残るところです。国民1人1人がこの判決を読んで、『日本ではやはり同姓が大事だ』と思うか、『別姓にしたい人がいれば認めよう』と思うか、率直に議論を重ねていく必要があります。そして、その議論は適切に立法府に反映されていくべきだと考えます」