「あんな憲法が通ったら日本を脱出します」。産経新聞によると、橋下徹大阪市長は同紙が4月26日に発表した「国民の憲法」要綱についてこう述べた。この要綱は「軍の保持」を明記し、国民に「国を守る義務」を課すなど、現行憲法を全面的に見直す内容で、各方面で議論を呼んでいる。
産経新聞が発表した「国民の憲法」要綱案は、前文から条文構造をも含めた大幅な刷新をうたい、「立憲君主制」や「家族の尊重」、「国民の国防義務」を盛り込むなど、現行の国家体制や人権保障に大きな変更を迫る内容となっている。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、現行憲法の理念から逸脱した憲法が制定されるようであれば、「海外への移住を本気で考えている」という男性が相談を寄せていて、「こんな私でも亡命できるのでしょうか」と質問している。憲法改正を理由にした亡命や移住は、はたして可能なのだろうか。川原俊明弁護士に聞いた。
●「亡命する権利」は、世界人権宣言で認められている
「『亡命する権利』は世界人権宣言で認められている『人権』です。この宣言は、戦争を含めたあらゆる迫害から人を守ろうとする狙いで、第2次大戦直後の1948年、国連で採択されました。条文には『すべて人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利を有する』(14条)と書かれています。日本もこのすばらしい宣言を尊重し、実現に努めてきました。
実は『日本国籍から離れる権利』については、日本国憲法そのものが保障しています。憲法22条2項は『何人も、・・・・国籍を離脱する自由を侵されない』としているのです。そして、離脱の際の具体的なルールは国籍法11条で決まっています」
亡命する権利は認められているし、日本国籍は自由に離脱できる——。ならば、「亡命」は今すぐにでも可能なのだろうか。
「いえ、現状の国際社会では、まだ無国籍の『世界市民』になる自由までが認められているとは言えません。実際にはどこか『受け入れてくれる亡命先』を探さなくてはなりません。
日本も加入している『難民条約』は、人種、宗教、政治的信条などが原因で自国政府から迫害を受ける可能性があり、実際に国外に逃れている人を『難民』としています。この条約は、国家に対して、迫害される恐れのある国に難民を送り返してはならないなどの義務を課していますが、(政治難民を含めた)あらゆる難民を受け入れろとまでは要求していません」
つまり、実際に「亡命」を実現するためには、まず相手国に「難民」として受け入れてもらう必要があり、正式にその国民となるためには、最終的に帰化審査で認められなくてはならないのだという。
では、受け入れてくれる国は簡単に見つかるものなのだろうか?
川原弁護士は「受け入れのスタンスは国によって様々で、実際に移住が認められるケースもあります」としたうえで、「現在の憲法改正論議を『改悪』とみて、真剣に日本脱出を試みる『亡命希望者』へは、まず各国大使館などを通じて亡命先(移住先)の国とコンタクトを取ることをお勧めします」とアドバイスしていた。