障害のある人の「性」はタブー視されがちだ。障害をもつ人の性にどう向き合っていくべきか。その具体的な支援策や教育は不十分ではないか。そんな問題意識から、障害者の性や恋愛、結婚、セックスについて真正面から考えるシンポジウム「生と性のバリアフリーフォーラム2015」(主催・一般社団法人ホワイトハンズ)が7月11日、東京都内で開催された。
シンポジウムに登壇した日本福祉大学教授の木全和巳さんは、障害を持つ子どもへの性教育の問題点を指摘。「これはダメ、あれもダメ」と上から禁止するような指導方法や、そもそも性教育を行わない教育の現状について、「性について知りたい欲求があるのに『学び』から遠ざけるのは、人権侵害だ」と訴えた。
●「男女が話すときはバドミントンをする距離で」
木全さんは、児童養護施設や知的障害児施設などでの勤務経験があり、障害がある人とその家族の支援のあり方を研究している。木全さんのもとには「障害者の性」に関する相談が数多く寄せられるが、先日、ある特別支援学校の養護教諭から届いたメールにショックを受けたそうだ。
「設立8年目となるその学校では、今まで、生徒たちの性教育について、職員研修をしたことが一度もないとのこと。他の子どもに抱きついたりしても、個別指導しかしていない。『小・中・高等部それぞれの段階で、どんな性教育を行えばいいのか』。メールにはそんな質問が書いてありました。それは今さら聞くことなのか、とショックでしたね」
障害者の性教育をめぐる難しさは、障害のある子どもと一口に言っても、1人1人の性別や年齢、身体の成熟度合いや、障害のタイプ、育った家庭環境などが千差万別であることだ。それぞれが抱える性の課題は大きく異なるため、個別的な指導が中心となる。そのため、学校や施設で系統的な指導が行われていないことが問題だと、木全さんは指摘する。
また、性教育の内容が「禁止型」になりがちなのも、悪い傾向だという。
「性教育を行っているところでも、これをしちゃダメ、と押さえつけるような指導をしがちです。『男女が話すときはバドミントンをする距離で』とか、先生が定規を持ってきて『40センチ離れなさい』と指導するところもあります」
●模型を使って「性器の洗い方」を教える
そこで木全さんは、学校や家庭で教えきれない部分をサポートすることを目的に、年に数回、地域の子どもたちを対象にした「性教育の講座」を開催している。
たとえば、思春期まっただ中の障害のある子どもたちを対象にした講座では、自分の気持ちを他者に伝えるワークショップなどを行い、他者との関係の築き方を教える。木全さんのゼミに所属する学生と2人でお昼を食べに行く「模擬デート」を行うこともある。
そのうえで、思春期の身体の変化や、赤ちゃんが生まれる過程を模型や映像で伝え、身体と心の変化を肯定的に受け止めさせる狙いだ。「男女に分かれて、模型を使って『性器の洗い方』も教えます」。その講座を受けた中学3年生の男子生徒は、母親に「お風呂でこうやって洗うんだよ」と誇らしげに話したという。
「お母さんは『とっても嬉しかった』と言っていました。でも、それはつまり、中3になるまで誰も教えてなかったのか、ということなんです」と、木全さんは語る。
「その子自身が、人生や生活の主人公として、他者と尊敬しあいながら生きて行くうえで、生と性の学びは欠かせない。たとえどんな障害があろうと、自分の身体に起こること、異性の身体に起こることを『知りたい』という欲求がある。それなのに、学びから遠ざけるのは人権侵害。『学習する権利』を奪ってはいけないと思います」