若手議員だけ報酬をアップするーー。そんな一風変わった条例が、長崎県小値賀町で成立し、話題を呼んでいる。満50歳未満の議員に限り、報酬を「月額30万円」にする。小値賀町議会の場合、一般議員の報酬は月額18万円と決まっているため、月12万円もアップするわけだ。
その背景には「若手議員不足」があるという。小値賀町の人口は約2700人。議会事務局によると、現在10人いる議員は全員が50歳以上で、平均年齢が65.3歳。しかも、2011年の前回町議選では、50歳未満の立候補者がゼロだったのだという。
条例案の趣旨説明では「子育て世代に対して、家族を養うことのできる収入の確保問題が決断を鈍らせているケースも少なくない」「町政に専念しても、家族を養えないとすれば、立候補意欲がそがれるのは当然」としている。
町内の若手に対し、今年4月の町議選への立候補を促す狙いはよく分かる。だが、「年齢」によって、議員報酬にここまで不平等な差を付けてもいいのだろうか。ルールとして問題ないのか、林朋寛弁護士に聞いた。
●憲法の「平等原則」からすると?
「地方公共団体の議会の議員の報酬などは、条例で金額が決められます(地方自治法203条)。したがって、今回の条例改正は、議会の裁量として許されるようにも思えます。
住民自治の観点からは、住民の理解と支持を得ているのであれば、小値賀町の判断として尊重されるべきです」
それでは、問題はないのだろうか?
「同じ権限・仕事の議員なのに、年齢によって報酬に差を生じさせたら、憲法14条の不合理な差別の禁止(平等原則)に違反するのではないか、という考え方はあるでしょう。
条例が違憲かどうかは、条例の目的が合理的かどうかと、条例がその目的を達成するための手段として合理的かどうかがポイントとなります」
●条例の「目的」と「手段」はどうか?
カギを握っているのは「目的」と「手段」の合理性ということだが、それぞれどうだろうか?
「条例改正の目的は『高齢化や過疎化への対策をするために、若い世代が町政に参加しやすくする』ことだそうです。
先日、毎日新聞が実施したアンケートによると、議員の平均年齢が若い議会は、議員提案による条例制定も積極的だということです。
そう考えると、今回の条例改正の目的には一定の合理性があり、正当化できると思います」
目的には合理性があるとして、「手段」としてはどうだろうか?
「そういった目的を達成する手段として、『子育て世代に見合った議員報酬を保障すること』にも、一定の合理性がありそうです。
したがって、この条例改正が憲法の平等原則に違反するとは、断言できません」
●他の手段は?
そうすると、つまり、「問題ない」ということだろうか?
「『議員報酬を上げること』が、合理的な手段と言えるかどうかについては、議論の余地が残るように思います。
その目的を達成するためには、他にもっと良い手段が採り得るかもしれません。たとえば、若者が兼職して議員活動ができるように、議会を夜間・土日に開催することもできるでしょう。
また、そもそも地方議会の役割について知られていないことが、若い世代の政治参加が進まない原因かもしれません」
若手世代の政治参加を促すために、どんな手段を採るべきなのか。今回の条例は良い「試金石」になるのかもしれない。
林弁護士は「もし条例改正が、実のところは現職議員の後継者のための条件改善であったとか、しばらく経ってから年齢制限を撤廃して、結果的に議員全部の報酬を上げるためだったとかというような事態になれば、問題化するでしょう」と指摘し、議会の動きをきっちり監視することが必要だと強調していた。