iPhoneやMacBookなどで知られるアップル社の製品。スマホやパソコンの本体のほか、さまざまな関連商品が公式ショップで販売されているが、ネットの通販サイトでもアップルの「純正品」をうたう商品が売られている。
「公式ショップで買うよりも安いから」「すぐに手に入るから」という理由で、非公式ルートで「リンゴのマーク」がついた商品を買う人もいるが、そこには落とし穴があるようだ。ある女性が、大手通販サイトで、アップル「純正」と表記されていたノートパソコン用の電源アダプターを購入したところ、まったく使い物にならなかったのだ。
●商品が届いて10分後、商品はバラバラになった
アップル製品をめぐるトラブルに遭遇したのは、東京都内のIT企業に勤めるK子さん。今年2月下旬、大手通販サイト「アマゾン」で、「純正 Apple MacBook Air用 ACアダプター」と表示されていた商品を注文した。電源アダプターを会社に置き忘れてしまい、急ぎ代替品が必要になったためだ。値段は8980円もしたが、休日に自宅で作業しなければいけなかったので、すぐに商品が届くアマゾンでの購入を決断した。
しかし、商品が届いてすぐ、異変が起きた。この電源アダプターをパソコンにつないでも、充電が始まらなかったのだ。K子さんが『おかしいな』と思って、アダプターを触ったとたん、バラバラに分解してしまった・・・。商品が届いて、わずか10分後の出来事である。
「配達された荷物をあけると、剥がれかけの『Apple純正』というシールが貼られた、ごく普通の茶色のダンボール製の小箱が入っていたんです。変だなと思いながら小箱をあけると、100円ショップに売っているようなジッパー付きの透明の袋が出てきて、その外側に『中国製』というシールが貼ってありました。その袋のなかに、白いアダプターが入っていたんです」
この商品は、アマゾンに出店する家電ショップが販売したものだった。K子さんが通販サイトに対して、「故障」を理由に返品を申し込んだところ、送料無料で返品・返金が認められた。しかし、とんだ不良品を買わされたことについて、K子さんは怒りがおさまらない。
●本物か偽物かに関係なく、損害賠償を請求できる
消費者被害にくわしい鈴木義仁弁護士によると「アマゾンの対応に問題はない」ということだ。
「商品が偽物か本物かは別にして、アマゾン側は、客の訴えを聞き、商品の返品・返金に応じていますから、対応としては問題ないでしょう」
しかし、このような説明を受けても、K子さんは納得できないようだ。
「バッテリー切れで作業ができなくなり、結局、深夜にタクシーで会社へ行くはめになりました。あんな壊れ方とパッケージからすると『アップル純正品』ではないと思います。それなのに、問題の店はまだ出品を続けていて、釈然としません。不良品を売りつけた店に対して、損害賠償を請求したいんです」
これについて鈴木弁護士は、次のように指摘する。
「損害として一番わかりやすいのは、ACアダプターを使ったことにより、パソコン本体が壊れるなどの異常が起きることです。この場合、損害賠償は認められやすいです。K子さんのケースは、そういうわけではありませんが、タクシー代という損害が発生しているといえます」
では、アップルの責任はどうか。アップル・ジャパンは、弁護士ドットコムニュースの取材に応じたが、K子さんのトラブルについては「コメントできない」という。通販サイトなど非正規の販売ルートで、アップル商品を購入した場合、純正品保証の対象にならないのはもちろん、その商品が偽物か本物かを確かめるため、アップルに調査を依頼することもできないのだ。
「今回のアダプターが本物か、偽物かはわからないとしても、商品として使い物にならないのは明らかです。実害がある以上、販売店に対して賠償請求できます」(鈴木弁護士)
●特定商取引法と景表法違反にあたる
では、仮に販売店が、純正でないのに純正であるように偽っていた場合、何かの罪に問われるのだろうのか。
「通信販売では、特定商取引法の適用が可能です。著しく本物とかけ離れた商品を掲載する場合、特定商取引法12条にあたります。また、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)4条1項1号にも違反すると言えます」
その場合、店はどのような処罰を受けるのか。
「特定商取引法12条違反の場合には、行政処分の対象ともなりますし(同法14条、15条)、100万円以下の罰金の規定もあります(同法72条1項3号)。
景表法違反の場合には、不当な表示をやめるような命令を出すことができ(景表法6条)、これに違反して不当な表示を継続した場合には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられることもあります(景表法16条)」
●消費生活センターへの通報が有効
では、偽物を売るような店に「出店」を許した通販サイトには、どんな訴えが可能なのだろうか。
「通販サイト側が、こうした被害の訴えがあり、偽物との疑惑を把握しながら、その商品を置いたことがわかれば、不当な広告を出して偽物を販売する業者を野放しにした責任を問える可能性があります。ただし、その場合、通販サイトの責任を立証するのは、被害者自身です」
泣き寝入りするのは悔しい、とK子さん。どのように立証すれば良いのか。
「一般の方が消費生活センターに対して問い合わせをしても、特定の業者や商品に関する苦情履歴を調べるのは難しいですが、裁判をおこす場合など、弁護士に依頼することで苦情履歴をとることができます。この調査で、過去にも同様の問題を起こしていたことがわかれば、裁判で悪質性を問えるはずです」
そのために、通販サイトに苦情を言うだけでなく、消費生活センターにもあわせて苦情を言う必要があると鈴木弁護士は強調する。
「行政権限では、1人、2人からの苦情だけで対応するのは難しいかもしれません。ただ、その数が膨らんでいけば、行政としても対応に動かざるをえません。消費生活センターに苦情をいえば、記録に残されますから、次なる被害者が出たときに力になると思います」