東急東横線と東京メトロ副都心線の直通運転に伴い、東横線渋谷駅は85年続いた地上ホームでの営業を終えた。最後の営業日となった3月15日には、このホームの姿を目に焼き付けておこうと、多くの鉄道ファンが殺到した。
鉄道ファンといえば、長年親しまれてきた列車が廃止になるとき、駅に詰めかけて撮影する姿がテレビニュースでよく流れているが、なかには駅員の注意を無視して列車に近づいたり、線路に立ち入って写真撮影をするなど、迷惑行動に出る鉄道ファンもいる。
昨年12月には、東京都内の高校2年の男子生徒が、山梨県内を走る中央本線の線路敷地内に立ち入って写真撮影をしていたところ、特急列車の運転手が見つけ緊急停止するという出来事があり、列車の運行ダイヤに遅れが生じた。
このように、鉄道ファンが迷惑な行動をして列車の運行を妨げた場合、鉄道会社は鉄道ファンに損害賠償を請求できるだろうか、前島憲司弁護士に聞いた。
●駅員に注意されただけでは、損害賠償請求の対象とならない可能性が大きい
「鉄道会社が鉄道ファンに損害賠償を請求する場合、民法の不法行為に基づく損害賠償請求権に基づいて、請求することになります。この場合、請求をするには具体的な損害が発生することが必要になります」
では、鉄道ファンの迷惑行為についてはどうだろうか?
「迷惑行為があったとしても、駅員に注意された、駅員の注意をきかなかった、というだけでは、鉄道会社に具体的な損害が発生するケースは少ないと思われるので、損害賠償請求はできない場合がほとんどでしょう」
つまり、迷惑行為といっても軽いものであれば、損害賠償請求の対象にはならないようだ。しかし、実際に損害が出れば、話が別である。前島弁護士は次のように説明する。
●列車の停止や遅延となると、鉄道会社は損害賠償請求が可能になる
「列車が停止した、列車が定刻に発車できずに遅延した場合などは、具体的な損害が発生するでしょう。例えば、ダイヤが乱れたため職員に超過勤務をしてもらった、非番の職員に出勤してもらった、それに伴って手当を支払ったなど、余計にかかった人件費がそうです。
それに、特急料金を払い戻した、振替輸送のため他の鉄道会社に費用を払ったなど余計にかかった費用は具体的な損害になります。さらに、急ブレーキをかけたためブレーキが摩耗した、停止・再発進したため余分にかかった電気代も合理的に算出が可能であれば賠償請求が可能でしょう」
このように、鉄道会社が損害賠償請求できる場合を具体的にあげたうえで、前島弁護士は次のように付け加えた。
「鉄道会社から損害賠償請求を受けなくても、威力業務妨害罪の成立、鉄道営業法違反などで罰金その他の刑事処分が科されることがあります。くれぐれも無理な撮影をしないようにしてください」
鉄道を愛するファンの気持ちは鉄道会社もうれしいだろうが、いきすぎた行動にまで発展すれば、多くの人に迷惑をかけてしまう。鉄道は公共性を有することを忘れないで、節度ある撮影を心がけてほしいものだ。