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費用倒れなりそうな少額トラブルは「裁判よりもADR」 法改正で「差し押さえ」まで可能に
画像はイメージです(Graphs / PIXTA)

費用倒れなりそうな少額トラブルは「裁判よりもADR」 法改正で「差し押さえ」まで可能に

敷金が返ってこなかったり、給料や養育費が支払われなかったり、私たちはいつでも"揉める可能性"がある。では、実際に揉めた場合、どうすればいいのか。恥ずかしながら、筆者は具体的なイメージを描けていなかった。

もちろん、そのために裁判という制度がある。しかし、裁判は思っていた以上にコストがかかって、費用倒れに終わってしまうことも少なくなく、文字通り、泣き寝入りしている人も少なくないだろう。

こうした状況を解決する「ADR」(裁判外紛争解決手続き)という制度があるのをご存知だろうか。トラブルのケースにもよるが、ADRは「早く」「安く」解決に導くことができるとされている。

このADRに関する法律が20年ぶりに変わり、2024年4月から、裁判の判決と同じように「差し押さえる力」(強制力)を持つそうだ。これは大きな変化だ」と知り合いの弁護士が言う。

知人であることに甘えて、そもそも私たちは揉めた場合、どうしたらいいんだっけ? ADRはどういうときに使えるんだっけ?というところを弁護士に聞いてきた。(ライター・大北栄人)

●ADRは「少額の手数料」で済む

──揉めごとがあったら、弁護士に頼むのかなと思ったんだけど。

費用倒れになる案件ってたくさんあるんだよね。たとえば20万の仕事をしたけど、発注者がお金くれないっていうトラブルは、フリーランスだとあり得るよね。弁護士に代理人を頼むと、弁護士によるけど10万とか20万とかそれなりに費用がかかる。そうすると「泣き寝入りせざるをえないですね」となる。でも、ADRだと少額の手数料で済むんだ。

──逆に言うと、今までそういった少額の揉めごとって、みんな泣き寝入りしていたの?

弁護士会がADR機関をつくったのは一応1990年ごろなんだけど、その前は泣き寝入りせざるをないことももっと多かったんだろうね。

──私怨がうずまいた"修羅の国"だったのか…。たとえばどんなケースで揉めるの?

一般的には不動産が多いかな、退去時の敷金とかもそう。ほかにも離婚などの家事だとか。交通事故だとか医療や金融機関とのトラブルを扱うものとかも。今までだと裁判所の調停を使うのが一般的だったんだけどね。

──それがADR使えばいいよってなった?

僕はそう思ってるけど、弁護士にもよるし、今でも「基本的には裁判所で解決」という弁護士も残念ながら多いんじゃないかな。ADR法が改善して裁判と同じような法的な強制力を持つようになった。今後はもっとADRを活用してくださいね、というのが今。

──少額で済む? タダではない?

費用はADR機関によるけど、タダのところもある。たとえば国の委託事業としてやってる「フリーランス・トラブル110番」は相談含めてタダ。国ではなくて、弁護士や業界団体がやってる「民間のADR機関」は手数料をとるけども、それでも安い。社会貢献でやってる面があるからね。

でも、その代わりあくまでADR機関やあっせん人は中立。代理人みたいにその人だけの味方ではないんだよね。

──ADRの場合はそこまで味方してくんないってことかなあ。揉めた人はどうやってADR機関までたどりつくの?

弁護士とか役所に相談したときに紹介してもらうのが一般的かな。今後はネットで調べてたどりつくのが多そう。ADR法の認証を受けたADR機関は今160ぐらいあるんだけど「この分野が専門です」「この分野しか扱えません」ってところも多い。

法務省が『かいけつサポート』というページを作って認証ADR事業者を検索できるようになってるけどね。弁護士会のセンターについては、日弁連のHPに「全国の「紛争解決センター」一覧」や「各地のセンター紹介」が掲載されているよ。

●法改正によって「強制執行」できるようになった

──もし自分がそうなったら「フリーランス 支払われてない」とかで検索するよね。

そうそう。でも検索だとSEOに強い法律事務所とか法テラスとかが出てくる。弁護士の中でもADRのこと理解してない人も多いので、「高い費用を自分に払うかそれとも止めるかどうしますか?」みたいな弁護士に当たってしまう。

──となると「フリーランス 支払われてない ADR」で検索しないといけなくなるなあ。

法務省が調査したらADRは一般の人の2割しか中身を知らないらしいんだよね。法務省もADRが知られていないという問題意識はもって取組みを進めているところ。ADRは、実は、高校の「公共」の教科書に載ってたりもするよ。

──そんな科目あったっけ…(※2022年公民科必修科目として開始)。なんかお知らせとかやってるの?

第二東京弁護士会仲裁センターのHPに載ってるマンガは実例としてわかりやすいよ。手数料も例として出てるけどこれは場合によりまちまちだね。

──あーこれイメージできてきた。検索なり弁護士や役所にADR機関に紹介されたとしてどう進むの?

電話で問い合わせをすると、申立書とかの書類を書くよう案内されて、書類出したら1カ月後とかに話し合いの場を設定してくれる。HPに申立書とかの書類が載っている機関も多い。かつては当事者双方に来てもらって話し合いをしてたけど、今はオンラインミーティングで済むところも増えてきたと思う。

──えーっ、でも揉めた相手と言い合いみたいになるよね?

話合いの仕方は機関やあっせん人によってもやり方が違うんだけど、ケンカになっちゃうような場合は間に入るあっせん人と申立人だけ、あっせん人と相手方だけ、とそれぞれと話し合うことも多いね。歴史的に日本の裁判所って、当事者同士が顔を合わせて話し合うことってなかったんだけどね。

──あ~、それが調停というやつ?

そうそう。「何日までにいくら払います」というのに双方が合意をする。そういう話し合いを何回かやって、「いろいろ思うところあるだろうけど今回はこれでまとめましょう」と合意書を作る。その合意書通りに支払われた場合は問題ないんだけどね。

──たしかに支払われないの、ありそうだなあ。

今回の法改正では、裁判したときと同じように強制執行できるようになったのがポイント。法務省の認証を受けているADR機関でないといけないんだけどね。執行決定をとって、差押えするという一定の手続きをする必要はあるけど、今までは、また別の裁判を起こさないといけなかったことを考えると楽になったはずだね。

──たしかに。そうなると「最初から裁判しとけばよかった…」ってなりそうだなあ。差押えの手続きって面倒?

債務者側の資産がはっきりしている場合だと、差押えの手続き自体は、別の裁判やるよりはかなり簡単で、裁判所に書類を出すんだよね。債務者側の資産がはっきりしてないと差押えが難しいということはあるんだけど、それは裁判やった場合も同じかな。養育費がなかなか支払われていないってニュース、聞いたこともあるよね。

──養育費支払われてない、っていう話を聞くけどそういう感じでなるのか。すいません、勉強になりました。私は何も知らずにのうのうと生きてきました……。

(法務省)仲裁法の一部を改正する法律、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00328.html
(法務省)かいけつサポート
https://www.adr.go.jp/
(政府広報オンライン)法的トラブル解決には、「ADR(裁判外紛争解決手続)」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201507/2.html
フリーランス・トラブル110番
https://freelance110.jp/
第二東京弁護士会仲裁センター
https://niben.jp/chusai/index.html
日本弁護士連合会 紛争解決センター(ADR)
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/conflict.html

プロフィール

農端 康輔
農端 康輔(のばた こうすけ)弁護士 神楽坂キーストーン法律事務所
1980年大阪生まれ。2004年東京大学法学部卒業。2009年弁護士登録。第二東京弁護士会仲裁センター運営委員会副委員長、公益社団法人日本仲裁人協会理事をつとめている。

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