千葉県八千代市のマンション前で6月中旬、母子4人が一緒に死んでいるのが見つかった事件は、大きな衝撃を与えた。報道によると、母親の荷物が14階建てのマンション最上階で見つかり、警察はマンションから飛び降りた「無理心中」とみて調べているという。
亡くなったのは35歳の母親と、小学2年生の長男、小学1年の長女、2歳の次男の合わせて4人。転落したとみられるころ、付近の住民たちは、子どもたちの「異常な大声」や大きな衝突音を聞いていたそうだ。
仮に警察の見立て通りだとしたら、おそらく母親は極限まで追い詰められていたのだろう。しかし、それでも、子どもたちも一緒に死ぬ理由にはならない。子どもと無理心中した親は、「殺人罪」にならないのだろうか。大和弘幸弁護士に聞いた。
●「無理心中」と「心中」の差は?
「八千代市の事件は、大変悲しい事件です。特に『異常な大声』を出していたという子どもたちのことを想像すると、胸が痛みます」
大和弁護士はこう前置きしたうえで、次のように説明する。
「無理心中を辞書でひくと、『死ぬ意思のない相手を無理に道連れにして自殺すること』などと記載されています。道連れにされた相手は、殺害されたことになります。つまり、無理心中は、『殺人行為』にほかなりません。
他方で、『心中』という言葉もあります。こちらは、『愛する二人が合意の上で一緒に自殺すること』です。この場合は殺人罪にはならず、自殺関与罪・同意殺人罪になります」
その差はどこにあるのだろうか?
「『無理心中』と『心中』の違いは、亡くなった被害者が、自分の生命という利益を放棄しているかどうかです」
●子どもたちが「自らの死」に同意するとは考えられない
すると、母親が小さな子どもと一緒に飛び降り、全員死亡したとすれば、どうなるのか?
「小学生以前の幼い子どもたちが、自分が死亡することに同意していたり、死ぬことを受け入れる能力があったとは考えられません。ですから、親の行為は、殺人罪に該当すると思います。
ただし、母親も死亡しているので、仮に捜査で容疑が強まったとしても、被疑者死亡で不起訴処分となるでしょう」
確かにそれほど幼い子どもたちが、「自らの死」を十分に理解しているとは言いがたいだろう。
「無理心中は、無理やり被害者を殺しているわけです。ですから、行為者が自殺をしようとしまいと、殺人であることに違いはありません」
このように、大和弁護士は指摘したうえで、「ニュースでも、『無理心中』などという婉曲的な表現を用いず、端的に『殺人』であると報じるべきなのではないでしょうか」と疑問を投げかけていた。