外資系ホテル「ヒルトン」のCMが、日本の旅館を馬鹿にしているなどとして炎上し、ホテル側が一部メディアを通じて謝罪する事態に発展した。
今回のケースは、企業がメッセージの発信を誤ると、反発が生まれる事例となってしまっただけではない。「同業者」をおとしめ、自分たちのサービスをよく見せるような内容のCMについて、弁護士は景品表示法違反の可能性も指摘する。
●「優良誤認表示のおそれが高い」弁護士の考え
消費者トラブル全般にくわしい金田万作弁護士は次のように解説する(以下、金田弁護士の解説)。
問題のCM(動画はすでにYouTubeから削除)は、旅館の女将が入浴、食事、チェックアウトなどの時間制限を早口でまくしたて、「せっかく休みなのに まったくゆっくりできないとき」とテロップが出されます。動画の後編ではその内容が一変します。
まず、スピード感のあるBGMがゆったりとしたBGMに切り替わります。そして、夜景の見えるラグジュアリーな空間に、ホテルの従業員が客の要望に従って予定を変更するという流れです。
これは、同種・類似の宿泊サービス(役務)を提供する一般的な旅館と比較して、ヒルトンのサービスが優れていると示すCMなので、景表法で定める「優良誤認表示」(5条1号)に該当する可能性があります。
優良誤認表示とは「事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」を言います。
CM前半のような旅館もないわけではないので「事実に相違」や「不当に顧客を誘引」などの要件が問題となります。
今回のようなCMは「比較広告」と呼ばれますが、景表法がそのすべてを禁止・制限しているわけではありません。ただ、消費者庁の「比較広告ガイドライン」に従えば、今回の主張内容が第三者による調査など客観的に実証されているかは疑問です。
ガイドラインの基本的な考え方は以下の通りです。
(1)比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
(2)実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
(3)比較の方法が公正であること
また、CMのようなサービスの旅館があったとしても、ヒルトンという高級クラスのホテル・旅館ではなく、もっと格安のホテルや旅館が想定され、社会通念上同等のものとして認識されていないものなどの比較に該当することから、優良誤認表示となるおそれは高いと考えます。