「親からの虐待を理由に親との誓約書を破棄したい」。このように語る男性からの相談が弁護士ドットコムに寄せられている。
相談者によると、親との関係について第三者に相談していたことがバレ、親にある誓約書を無理矢理書かされたそうだ。それは「将来親の老後の面倒をみること。約束を破ったら大学の学費を支払うこと」という内容だった。
その後、日常的な暴言等の虐待を両親から受けてきたことを自覚した相談者は、虐待を理由に誓約書を破棄したいと考えるようになった。
とんでもない誓約書の内容ではあるものの、サインをした以上、その誓約書は有効なのだろうか? 森本明宏弁護士に聞いた。
●「親と同居などして身上介護までする義務はない」
——親の介護について、子どもはどのような義務があるのでしょうか
親の介護については、民法877条1項が「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています。
そして、子の親に対する扶養義務は、収入等に応じた通常生活を送ったうえで、余力のある範囲で経済的な援助をする義務とされています。したがって、実際に親と同居などして身上介護までする義務があるというわけではありません。
——では今回の誓約書も有効ではないと考えてよいのでしょうか
今回の誓約書は、法律上の義務とまでは言えない将来の身上介護を約束させ、約束を守らなければ大学の学費という極めて高額な経済的負担の義務を課すものです。しかも、介護を開始する時期や介護の期間も限定されておらず、過度な負担となりかねません。
したがって、この誓約書は、子どもの将来の生活の自由や経済的な自由を極度に制限するものであり、民法90条の公序良俗違反として無効と評価できるでしょう。誓約書にサインをしたのが18歳の成年に達する前であれば、民法5条2項で取り消すことも可能です。
——そもそも、このような誓約書を書かせることの問題はないのでしょうか
このような誓約書へのサインを強制すること自体、子に対して身体的、心理的な過度の負担を課すものであって虐待になり得ます。そして、親から暴言などの虐待を受けてきた場合の経済的な扶養義務の程度は、家庭裁判所が決める場合、そのような事情を考慮して相当程度減らされる見込みはあると言えます。