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「集団ストーカーは実在します」統合失調症の患者の不安につけ込む、探偵会社のセールストーク 
画像はイメージです(kai / PIXTA)

「集団ストーカーは実在します」統合失調症の患者の不安につけ込む、探偵会社のセールストーク 

統合失調症の患者たちは、自身が抱える「集団ストーカーに狙われている」「思考盗聴された」という悩みを、医療機関ではなく探偵会社に救いを求めて相談することがある。悪質な業者は、患者たちに法外な調査料を支払わせる実態がある。

ホームページで「集団ストーカー」の調査などを行っているとうたう探偵会社は日頃、どのように相談に応じているのか。複数の探偵会社に覆面の電話取材を行ったところ、言葉巧みに不安につけこむ実態が明らかになった。(ノンフィクションライター・片岡健)

●統合失調症を熟知した担当者が「集団ストーカー」は実在すると明言

探偵会社に対しては「1年くらい前から、家族の言動がおかしくなり、集団ストーカーや盗撮・盗聴の被害を訴えるようになった」と状況を告げたうえ、「家族としては精神疾患ではないかと疑っているが、本人は病識がない。集団ストーカーは存在しないことを本人に自覚させるため、探偵の利用を検討している」と趣旨を説明。探偵会社がそのような相談に対し、どんな対応をしているかを調査した。

非常に手慣れた対応だったA社から紹介したい。

電話に出た担当のT氏は、年齢が40~50代と思われる男性。早口でよくしゃべる人だった。結論から言うと、T氏は統合失調症の症状などを熟知しており、病気の特徴を踏まえながら、巧みな話術で相談者が調査を依頼するように誘導してくる印象だった。

T氏はまず、こちらの話を親身に聞いてくれているような雰囲気を出しつつ、次のように語りかけてきた。なお、T氏の言葉については、趣旨をゆがめない範囲で修正している。

「こういう時に大切なのは、集団ストーカーの被害に遭っているという本人の訴えを否定してはいけないということです」

「本人に対し、『集団ストーカーなんて存在しない』などと頭ごなしに言ってしまうと、本人はふさぎこんでしまいます。家族間に亀裂が入ってしまうのは良くないですからね」

このように本人の訴える被害について、妄想だと否定せずに耳を傾けるべきだという内容のT氏の助言は、まるで精神科医のようだ。しかし、T氏が精神科医と違うのは、あたかも「集団ストーカー」が実在するように言ってくることだ。

「これまでに調査した結果、『集団ストーカー』が実在したことはあったのですか?」と質問したところ、T氏はこう言い切った。

「実際に集団ストーカーはいました。いわゆる復讐代行業は残念ながらいますからね」

では、T氏がこれまでに経験した「集団ストーカー」はどのような人物だったのか。復讐代行業とは、そもそも何なのか。そう質問すると、T氏は「加害者側がどういう人間かは千差万別です。会社ぐるみとか、復讐代行業、あとは“何でも屋”もいましたね」などと曖昧な説明をした。そして集団ストーカーの手口について、こう話した。

「集団ストーカーはターゲットにした人に対し、ただ立っているだけの姿を見せつけるとか、鼻をすすってプレッシャーを与えるとかして精神的に追いつめるのです。ターゲットにされた人は、こうした被害は家族にすら理解してもらえず、否定されるので、独りで追い詰められていくのです」

統合失調症の人であれば、自分の目の前に立っているだけの人や、鼻をすすっただけの人に対し、「集団ストーカー」の犯人だという妄想を抱くこともあるだろう。誰にも信じてもらえずに孤立した統合失調症の人がこの会社に電話し、こんな話をされたら、「理解者」が現れたように思い込んでしまいそうだ。

●頼りになる探偵会社だと思わせるセールストーク

さらにT氏が巧みだったのは、このように「一般論」としては集団ストーカーが実在すると言い切る一方で、相談者の家族が訴える集団ストーカーについては、実在するともしないとも言い切らないことだ。たとえば、T氏は次のように説明した。

「妄想性障害により集団ストーカー被害を訴える人もいます。関係ないものが関係あるように見えているのです」

「私は医者ではないので、経験上でのお話になりますが、ご本人が訴える集団ストーカーが本当は存在しないのであれば、精神的な病気なのだろうという話になってきます。ただ、調査によって、集団ストーカーは存在しなかったとわかると、ご本人が『そうなんだ』と安心することがあります。『思い込みだったのかな』と目がさめることも珍しくないのです」

相談者の家族が訴える集団ストーカーについて、病気に起因する妄想である可能性も示しつつ、実際に妄想であっても探偵会社に調査を依頼することにはメリットがあるとさりげなく伝えてくるわけだ。さらにT氏はこんなことも持ちかけてきた。

「私は中立的に話をうかがいますが、集団ストーカーが絶対に存在しないということであれば、ご家族の同意があれば、あらゆることをとことんやって、集団ストーカーが存在しないことを証明しますよ」

「仮に医療につなげていかなければいけない場合には、ご本人が病院に行くように誘導もさせてもらわないといけないと思っています。そのようなアフターサポートもやらせて頂きます。病院に行くことを本人が納得するようにつなげていきます」

集団ストーカーが実在しようがしまいが、この探偵会社に調査を依頼すれば、頼りになりそうだ――相談者にそんなふうに思われそうなセールストークだ。

●「持って生まれた精神力が弱いと、うつ病になる」

一方でT氏は、「早く調査したほうがいいです」「現状把握をすることが大切です」などとせかしつつ、次のような不可解なことを言ってきた。

「集団ストーカーによって精神的に壊れた結果、統合失調症などの精神疾患になることもあります。持って生まれた精神力が弱いと、うつ病になるし、統合失調症もそういうふうに徐々になっていくことがあるのです」

「実際に何者かから嫌がらせを受けた結果、統合失調症を発症したケースもあります」

つまり、集団ストーカーの被害を受けるうち、追いつめられて統合失調症を発症するケースもある――というのだが、そんなことが本当に医学的にありえるのだろうか。この点について、前出の北海道大学病院附属司法精神医療センターのセンター長で精神科医の賀古勇輝氏は「集団ストーカー被害を受けて統合失調症になるのではなく、統合失調症の症状として集団ストーカーの被害を訴えるのです」と否定した。

「その探偵会社がそういうことを言うのは、集団ストーカー被害を訴えている人がのちのち病院につながり、統合失調症と診断された時、『やっぱりそうなったでしょ』と言うためでしょう」

要するにT氏は相談者の訴える集団ストーカー被害が病院で妄想だと診断された場合も、自分は嘘をついたわけではないと主張できるように逃げ道を用意しているのだろう。

●「私の親族も長年、被害にあっていました」

続いて、言葉巧みだったT氏に比べると、やや不慣れな印象を与えるB社のS氏の対応を紹介したい。なお、S氏の言葉についても、趣旨をゆがめない範囲で修正している。

おそらく30代くらいの女性と思われるS氏は、「私の親族も長年、集団ストーカー被害にあっていたので、この仕事をしています」と話し、聞いてもいないのに「私も心療内科に通って、睡眠導入剤を飲んでいます」などと自分語りを始めるなど、ちぐはぐなやりとりも垣間見られた。

電話では、初っ端から「集団ストーカーのきっかけは、ご本人が作り出した可能性が高い」として、集団ストーカーがいることを大前提に会話を進めようとしていった。

「弊社でも過去、多数の相談を調査してきましたが、ご近所さんからいじめを受けている、という人が非常に多いんですね。村八分というのか、田舎はコミュニティが狭いので、何かトラブルがあって陰口を言われるようになってしまう。これが集団ストーカーの正体ってこともあります」

「最近は反ワクチンの人も多いです。反ワクチンの人たちは、周りに理解されないという思いが強いし、SNSとかのトラブルも多いので、悪口を言われたり孤立したりして集団ストーカーに悩まされるようになるみたいで」

どちらのケースも、ありふれた対人トラブルにすぎず、これを「集団ストーカー」と定義していいのかは疑問だ。

●「集団ストーカーはいます」

しかしS氏は「集団ストーカーはいます」と言い切って、話を進めていく。詳細を聞こうとすると「警察が動くレベルじゃないんですけど。私が詳細をいうことで不安が広がってしまうこともあるので、詳しく言える話ではないですね」と煙にまこうとする。

なんとか聞き出したのが次のような話だった。

「宗教トラブルが隠れていることはありますね。脱会騒動ではなくて、その宗教に関係ない人が巻き込まれることも。危険があるので詳しくは言えません。電磁波アレルギーが関係することもあります」

前述のT氏に比べると、S氏の話は全体的に胡散臭さがよりわかりやすく感じられた。なおS氏に対しても、電話した記者は「集団ストーカー被害を訴える者の家族」という立場で電話をしている。

「弊社への相談の9割がご家族ではなくて、ご本人からの相談です。集団ストーカーはいないという結果になった場合も、いるという場合も、ご本人が納得しないケースもありますよね。そういう時に医療機関につなげるか、ですか? いや、私たちは探偵会社なので、そういうことはできないですよね。その先、依頼者がどうなるかは、ちょっとわからないですね」

なお「統合失調症の患者には、集団ストーカーを訴える人が多い」という話をしても、「集団ストーカーはいるし、精神的に追い詰められたのが病気のせいなのか、集団ストーカーのせいかは、探偵会社にはわからない」と言うばかりだった。

●料金設定は明瞭にせず、取れるだけ取る?

では、調査料金はどれほど取っているのか。まず冒頭のA社のT氏はこう説明した。

「1日の調査は最大8時間で、基本料金は1日13万2000円からです。これは基本で、住んでいる家や調査員が車と電車どちらで移動するかなどによっても料金が異なります」

ずいぶん高い料金をとる印象だ。試しに都内の一軒家に住んでいることを告げてみると、T氏は「それなら1日あたりではなく、1時間単位のプランで考えたほうがお得です」と言い、次のようにたたみかけてきた。

「弊社では、1日あたりではなく1時間ごとの請求もできます。1時間あたり2万7500円で、最低10時間からとなります。たとえば1日1時間の調査であれば、10日間行えます。その代金で盗聴器や盗撮器の調査もできるので、稼働時間で料金を頂き、調査員がフレキシブルに動くほうが良さそうです」

またB社のS氏は次のように説明した。

「集団ストーカーがどのくらいのペースで出現するかにもよるのですが、最低でも3回分の調査をするとよいと思います。料金は1回あたり10万円からで、場所や内容によっては12万円くらいになることもありますね。長い方は3カ月くらいかけて、400〜500万円くらいになる方もいました」

説明を聞く限り、A社、B社共に調査料金は明瞭に設定せず、「取れるだけ取る」というやり方なのではないかと思われた。では、集団ストーカーについて、一体どのような調査を行うのか。

「最初にやったほうがいいのは、住環境の安全確保です。自宅に盗聴器、盗撮器があるのかないのか。調査初日にその心配があるところを確認します」(A社のT氏)

「集団ストーカーの調査については、調査員が1人で調査対象者を尾行します。普通のストーカーであれば、調査対象者が1人なので、尾行する調査員は2人、3人でチームを組みますが、集団ストーカーの場合、調査対象者以外のストーカーがどこに潜んでいるかわからないので、調査対象者の後ろに2人、3人でついていくとバレやすいのです」(A社のT氏)

「その方のお悩みによって違ってきますね。集団ストーカーに“あいつは誰だ”と圧力をかけるために、わざと調査員が一緒に歩いて牽制することもありますし、集団ストーカーに気がつかれないように動くことも」(B社のS氏)

A社の説明にあった、1人のストーカーの調査よりも、集団ストーカーの調査のほうが調査員の人数が少なくて済むというのは、冷静に考えるとおかしいが、T氏の説明は一応、なんとなくスジが通っている。即興でこんな説明ができるとは思い難いから、おそらくマニュアル化されているのだろう。

ひとしきり説明を聞き終え、「費用面のこともあるので、依頼するかどうかはすぐにお答えできない」と告げると、T氏は最後にこう売り込んできた。

「これも集団ストーカーの特徴ですが、探偵に調査を依頼した時点で消えたり、加害者がこちらの動きを警戒して1週間ほど加害行為をしてこなくなったりすることもあります。被害者さんの妄想だった場合でも、探偵に調査を依頼することにより、ご本人は自分を理解してくれる人が出てきたという安心からでしょうか、『(加害者が)引っ込みました。ありがとう』で済むこともあるのです」

T氏は総じて、親身に相談にのっているような話し方をしつつ、要所要所で調査を依頼するメリットを上手にアピールしてきた。集団ストーカーの被害に悩む統合失調症の人がこの会社に相談すれば、ワラをもすがる思いで頼り、高い調査料を支払ってしまうかもしれない。

●業界の闇を告発、探偵会社の社長はどうみる?

画像タイトル 重川亮社長(筆者撮影)

A社とB社に対する覆面取材の結果は、同業者からはどう見えるのか。

統合失調症の患者が探偵会社に法外な調査料金をとられるなどカモにされている問題を業界の内部から告発してきた「総合探偵社フォーチュン広島」の社長、重川亮さんは、「いずれのセールストークも辟易する内容ですね」と全体の印象を語り、具体的な問題点を順次指摘した。

まず、A社については、「集団ストーカーが存在しないことを証明する調査」も可能だと言っていることが一番引っかかったという。

「存在しないことを証明するのは『悪魔の証明』ですから、調査によって証明できません。それに、統合失調症の人は日頃から『私は何者かに何らかの被害を受けている』と疑念を抱いています。その疑念に『よく見かけるあの車は集団ストーカーなのではないか』と、非合理的な理由付けを行います。何らかの調査をしたうえで、『あの車を運転している人は集団ストーカーではない』などと説明し、理由付けの部分を否定しても、根本にある被害妄想は一向に崩れません。調査すること自体、意味がないのです」

一方、相談への対応にやや不慣れな印象があったB社については、こう分析する。

「統合失調症の人本人ではなく、その家族からの相談は少ないはずなので、対応がちぐはぐになったのでしょう。逆に言うと、集団ストーカーや電磁波攻撃の被害から早く楽になりたいという切実な思いで相談してくる統合失調症の人本人であれば、こんな拙いセールストークでも騙せるのだと思います」

また、A社、B社共に料金の説明にも不審に思える点があるという。

「探偵社は、電話相談では通常、悩みを解決する方法を最初に伝え、次に、そのためにどんな調査をする必要があるかを説明し、最後に、その調査にどのくらいの料金がかかるかを伝えます。

しかし、A社、B社共に調査をすると言いながら、集団ストーカーがどうすれば解決するのか、具体的に示していません。それでいながら、10時間で25万円(=1時間あたり2万5000円+消費税で、最低10時間からとなるA社のケース)とか、3カ月で400~500万円(B社のケース)とかいう料金を取るのは非常に疑わしいと思います」

ちなみに重川さんの会社の場合、調査料金は20時間20万円(税込み)が基本で、後から料金が上がることがないことを依頼者に示すため、Webサイトに料金体系を記載している。目安として、100万円以上の調査料金を提示してくる探偵社は注意したほうがいいという。

重川さんは最後に、今回感じた「最大の疑問」をこう話した。

「A社もB社も、統合失調症の人の家族ではなく、本人からの相談であれば、もっと不安をあおって言いくるめ、成約するようにしたのではないかと思います。とはいえ、両社の人たちも統合失調症の人を騙すために探偵を始めたわけではなく、当初は志もあったはずです。この人たちが今、どんな思いで探偵をしているのかが最大の疑問です」

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