2024年度上半期に発行される新しいデザインの一万円札の印刷がすでに始まっています。新一万円札の顔は「渋沢栄一」ですが、かつては「聖徳太子」が描かれた旧一万円札もありました。
現在も使用できる紙幣や貨幣については、財務省や日本銀行が見本の図柄と合わせてホームページで一覧にして公開しています。
同ページによると、1958年12月~1986年1月まで発行された聖徳太子の一万円札はもちろんのこと、1885年9月~1958年10月まで発行された大黒像が描かれた旧壱円札も使用可能とされています。
大黒像の旧壱円札(日本銀行ホームページより、https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/note/valid/past_issue/pbn_1.htm/)
一万円札は高価であるがゆえに、「偽札」が作られることも多いようです。警察庁の公表資料によると、2021年に発見された偽札(偽造銀行券)の枚数は「2110枚」。そのうちの約98%にあたる「2075枚」が一万円の偽札でした。
ほとんどの人が見たことないような古いお札を店舗で客が使おうとした場合、店側としては「偽札」への警戒感を抱いてしまうかもしれません。使用可能な本物のお札でも、店側が「偽札かもしれない」と判断した場合、受け取りを拒否することは可能なのでしょうか。前島申長弁護士に聞きました。
●「強制通用力がある以上、弁済としては有効」だが…
——支払いの受け取りを拒否するというのは、法的にどのような意味があるのでしょうか。
日本銀行法46条2項は、「日本銀行が発行する銀行券(日本銀行券)は、法貨として無制限に通用する」と規定しています。
また、民法402条は、「債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる」と規定しています。
金銭債権の通貨による弁済は、原則として強制通用力のある日本銀行券であれば支払いが可能となりますので、たとえ大黒像が描かれた旧札であっても強制通用力がある以上、弁済としては有効です。
したがって、旧札での弁済に対し、受領を拒否した場合は、法律上は受領拒否の問題が生じます。
——どのような場合に店側は受け取りを拒否することができるのでしょうか。
民法402条1項但書は、「ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。」と規定しており、契約締結自由の原則から、当事者の合意によって特定の種類の通貨での給付を約束することが可能です。
したがって、当事者間で「旧札以外」の現在流通している紙幣での給付を約束したような場合は、旧札での受領を拒否することが可能です。
また、個人商店での店頭販売では、売主側において、契約締結の自由の観点から、あらかじめ弁済方法を指定することもできますので、店側が現在流通している紙幣でしか売らないと主張することも可能です。
この場合は、そもそも売買契約が成立していませんので、店側には商品の引渡義務は発生しませんし、旧札の受け取りを拒否することが可能となります。
そういった事情がなければ、原則として受け取りを拒否することはできないということになります。もっとも、強制通用力があるからといって、客が受け取りを店側に強制することができるというわけではありません。
旧札のコレクター価値はともかく、実際に紙幣として使用する場面では、現在流通している紙幣と同価値です。現在流通している紙幣と交換した上で使用すれば、受け取り拒否などのトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。紙幣の交換は日本銀行の窓口などで可能です。