リニア中央新幹線の工事をめぐって、川勝平太知事の反発姿勢がたびたび報じられる静岡県。JR東海との関係は、1992年の東海道新幹線「のぞみ」導入のころから良好とは言い難い面がある。
静岡県には東から熱海駅、三島駅、新富士駅、静岡駅、掛川駅、浜松駅と6つの新幹線駅があり、155kmもの長距離区間なのに、のぞみは静岡県内に1本も停まらない。
このような状況をめぐり、過去には「新幹線通行税」構想が静岡県議会で出てくるほど、積もり積もった不満がある。
●静岡県知事が「大変な名案」と持ち上げた「通行税」構想
この「新幹線通行税」とはなんだろうか。2002年の静岡県議会定例会における、曽根恵津広県議(当時)の質問が発端となった。
「例えば、 県や県内企業がJRの株主となり積極的に意見を述べる機会を確保するとか、 通過するだけの『のぞみ』や『ひかり』 の乗車人数を地方税対象にしてはとか、 思い切った策を講じなければ県民は納得しないのではないでしょうか」
この質問に対して、石川嘉延知事(当時)は「大変これは検討に値する名案じゃないか」と賛同の姿勢を示したことで、大きな話題になった。
かつて、鉄道のグリーン料金とA寝台料金には、10%の「通行税」が課されていたのだが、消費税導入に伴って廃止されていたため、意外な形でその名前が出てくることになった。
県議や知事の発言の背景には、2003年の品川駅開業に伴うダイヤ改正で、JR東海が「ひかり」や「こだま」の特急料金を 「のぞみ」と統一し、 実質値上げを打ち出していたことがある。特に「のぞみ」が停まらない静岡県民にとっては、負担が増えるだけだった。
石川知事は県議会で「全く静岡県軽視でありまして、 まことに残念」と発言。「JR東海が本当にこちらの希望や考えに即していろいろな改善を図らざるを得ないような方向へ努力をしてまいりたい」と語っており、通行税への賛同は牽制の意味があったようだ。
これに対して、JR東海の葛西敬之社長(当時)は、2003年2月28日の会見で「エキセントリックだ」と批判した。
●幻のキャッチコピー「のぞみ禁止令」
「のぞみ」が停車しないことへの怒りは、たびたび県議会や市議会などで噴き出ている。
2005年3月の県議会定例会で、石橋康弘県議(当時)は、「のぞみ禁止令」という言葉を取り上げた。これは、他県から静岡県に来る人に対して、「のぞみ」を使ったら静岡に来ることができないので、「のぞみ」に乗らないように促すもので、石橋県議は「幻のキャッチコピー」として紹介している。
静岡と比較対象として持ち出されるのが、山陽新幹線が横断する形となっている岡山だ。
2002年の旧静岡市議会で、当時、同じ中核市だった岡山市では、「のぞみ」、「ひかり」が全て停車していることを剣持邦昭市議が指摘。政令市移行を見据えて、「最重要課題だ」と主張した。
この状況は今も続いていて、岡山駅にはすべての「のぞみ」、「ひかり」が停車する一方で、静岡県内の新幹線駅は、政令市にある静岡駅、浜松駅を含めて、「のぞみ」は一つも停まらず、「ひかり」についても、一部は静岡県内の駅をとばしていくため、1時間に1本程度しかない。静岡県民は、一部の「ひかり」や、各駅停車の「こだま」を使うしかない。
●岸田首相も「静岡飛ばし」の対策について言及
現在、川勝知事の反発により、リニア中央新幹線の先行きが不透明になっているが、リニアが開業すれば、「のぞみ」は静岡県内に停まるようになるのか。
JR東海のホームページでは、リニア中央新幹線が全線開業した後、東海道新幹線は、「のぞみ」中心のダイヤから「ひかり・こだま」中心のダイヤに移行することが記載されているが、「のぞみ」が静岡県内に停まるとは書いていない。
岸田文雄首相が、今年(2023年)の年頭会見で、「リニア開業後の東海道新幹線における静岡県内の駅等の停車頻度の増加について、本年夏をめどに一定の取りまとめを行い、関係者に丁寧な説明を行っていきたいと思います」と述べ、今後、何らかの方針を示すことを明らかにしている。
「のぞみ」の通過に税金を課すことが議論になるほど積もり積もった静岡県の不満が解消される日はやってくるのか。リニアの動向とセットで見ていくと興味深い。