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裁判の勝ち負け、賠償額じゃなくて「訴訟費用」の負担割合で決まる? 元裁判官が解説
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裁判の勝ち負け、賠償額じゃなくて「訴訟費用」の負担割合で決まる? 元裁判官が解説

裁判には弁護士に払う「弁護士費用」とは別に、「訴訟費用」と呼ばれる手数料などが発生します。一般的な損害賠償請求事件(民事)の判決では、裁判所が賠償額のほかに訴訟費用の負担割合も決めます。

ニュースで判決を取り上げる場合は、その賠償額にばかり注目されがちです。しかし、訴訟費用の負担割合が「原告49・被告1」など、大きな差がついたとき、判決をどのように捉えればよいのでしょうか。

かつて裁判官時代に費用負担の割合を決めていた森中剛弁護士に聞きました。

●民事訴訟法で定められる「訴訟費用の負担割合」

——訴訟費用の原告と被告の負担割合はどのように決まるのですか。

まず、具体的にどのようなものが「訴訟費用」に含まれるかは、「民事訴訟費用等に関する法律」という、司法試験ではおよそ勉強しない法律で定められています。この法律に「弁護士費用」は記載されていないので、「訴訟費用」に含まれません。

裁判所のHPでは、「訴状やその他の申立書に収入印紙を貼付して支払われる手数料のほか、書類を送るための郵便料及び証人の旅費日当等」を意味すると説明されています。

訴訟費用の負担については、民事訴訟法にもとづき、裁判官が判決を作成する際に合わせて決めます(民事訴訟法67条1項)。

「訴訟費用は、敗訴の当事者の負担とする」(同法61条)、「一部敗訴の場合における各当事者の訴訟費用の負担は、裁判所が、その裁量で定める。ただし、事情により当事者の一方に訴訟費用の全額を負担させることができる」(同法64条)と定められているので、原告が「全面勝訴」(もしくは全面敗訴)の場合には、同法61条により、敗訴した側が原則として全面的に負担するというのはわかりやすいでしょう。

全面勝訴(全面敗訴)ではなく、原告の請求が一部認められるときには、同法64条により、裁判所の裁量で決めることになります。この場合、勝ち負けの割合によって定めていることが多いと思います。

一般的な民事裁判における判決言い渡しは次のようなものです。

「主文
(1)被告は原告に対し、金1万円を支払え
(2)原告のその余の請求を棄却する
(3)訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする」

上記のような主文の場合、訴訟費用のうち、原告が4分の3、被告が4分の1を負担するので、この割合から推測すると、原告の請求した金額は4万円で、判決では1万円の支払のみ認められたということになりそうです。

このように、量的に分けることができる場合はわかりやすいのですが、判決によってはそれが難しいものもあります。

⚫️けっこう難しい負担割合の決め方

たとえば、Xさんが、Yさんから車を100万円で購入したにもかかわらず、車を引き渡してくれないので、Yさんに引き渡しを求めた裁判を考えてみましょう。

実はXさんは代金をまだ支払っていないとします。そうすると、Yさんには、お金が支払われるまで車を引き渡さなくてよいという権利が認められている(民法上の同時履行の抗弁)ので、裁判所としては、

「Yさんは、Xさんに対し、100万円の支払を受けるのと引き換えに、車を引き渡せ」という判決を下すことになります。

Xさんから見れば、100万円の支払いという条件が付けられてしまったので、一部敗訴ですが、量的にどっちがどれだけ負けているのか何とも言い難いですよね。

このような場合には、裁判の内容から、実質的にどちらがどれだけ勝ったのか、負けたのかを考慮して、訴訟費用の負担を裁判所が決めることになります。

上記の事例でいうと、難しいですが、基本的には、五分五分のような気がするので、2分の1ずつ負担としそうな気もします。

原告のXさんが裁判を起こす前に100万円を支払っていたら、裁判する必要すらなかったということも考えられるので、Xさんに多めに負担してもらうということもあるかもしれません。

逆に、Yさん側に何らかの責任があって、Xさんが支払いを止めていたといった事情があれば、Yさん多めの負担もありそうです。

⚫︎訴訟費用の割合から「裁判官の目線で見た勝ち負け」がある程度わかる

——実際のケースですが、請求が一部認められて賠償命令を受けた当事者やその支持者が、「費用負担割合が原告より少ない」ことをもって「実質勝訴」を宣言するケースもあります。これはどのように考えればよいのでしょう。

賠償請求のような金銭の支払いを求める請求でいえば、基本的に、原告の請求額と、判決で認められた支払額とを比較することになります。

たとえば、1億円請求したのに、100万円しか認められなかった場合、被告側からみれば、「実質勝訴」といえるかもしれません。

画像タイトル 写真はイメージ(takeuchi masato / PIXTA)

ただし、これだけで決まるようなものでもなく、原告側としては「もともと、請求が認められるかどうか難しい裁判だったけれども、100万円の支払いが認められたのは、画期的な判決なので、実質勝訴だ」という場合もあるでしょう。

また、「請求は棄却されたけれども、判決の内容で、原告の〇〇という主張を認めてくれたので、実質勝訴だ」というようなコメントを見ることもあります。

判決の主文だけで、黒か白かのようにハッキリと勝敗を決めるのは難しい場合もあるということです。

ここでの勝ち負けは、あくまで当事者双方の主観ですので、裁判をした目的や、動機、その目的が達成されたかどうかもポイントになってきます。たまに明らかな負け惜しみで「一部勝訴だ」などと言う当事者もいます。

一つ言えるのは、これまで説明してきた通り、訴訟費用の負担割合は訴訟を担当した裁判官が決めるので、訴訟費用の負担割合をみれば、裁判官から見た勝ち負けの割合がある程度わかるということです。

なお、弁護士費用は、それぞれの弁護士で金額や計算方法が違いますので、弁護士費用が高くついたから負けとかいう話にはならないとは思います。それでも、認容額を上回るような弁護士費用の場合には、コスパは悪いという結果にはなります。

⚫︎実は当事者が訴訟費用を求めるケースは珍しい?

——判決で割合の決められた訴訟費用の具体的な金額は、判決とともに自動的に計算され、負担割合の大きいほうから小さいほうへ支払いが命じられるのでしょうか。

割合を決めるのは裁判官ですが、民事訴訟法71条1項で、「訴訟費用の負担の額は、その負担の裁判が執行力を生じた後に、申立てにより、第一審の裁判所書記官が定める」と定められており、具体的な金額は裁判所書記官が計算します。

ただし、実際に訴訟費用を払ってもらいたい場合には、当事者が別途、裁判所に申し立てる必要があります。

ちなみに、私が弁護士になってからこれまで、2〜3回ほど、相手方から訴訟費用の確定の申立てを受けたことがありますが、金額や計算方法が細かく定められておりますので、計算はかなり煩雑です。

一方で、訴訟費用自体は、そこまで金額が大きくありませんし、当事者双方が訴訟費用を負担するとなっている場合、相殺処理がされますので、実際に請求できる金額はさらに低くなります。この申立ての手続きにもお金がかかりますし、場合によっては弁護士費用も別途生じてしまいます。

また、この手続きでは、当事者が負担する訴訟費用の額が決められるだけで、実際に回収しようとすると、相手方が任意に支払ってくれない場合には、強制執行等の別の手続きが必要になります。

あまりコストパフォーマンスがよくないので、私は基本的には依頼者におすすめしていません。

プロフィール

森中 剛
森中 剛(もりなか ごう)弁護士 弁護士法人Authense法律事務所
元裁判官。退官後、福岡県にて弁護士活動を開始し、2020年、弁護士法人Authense法律事務所入所。中小企業だけでなく大企業に対しても、予防法務から訴訟対応まで、幅広いリーガルサービスを提供している。

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