この4月から導入された「タクシー運賃」の新制度をめぐり、業界が大きく揺れている。国交省近畿運輸局から「運賃を値上げしろ」と勧告された近畿の格安タクシー事業者が、不利益な行政処分をするなと訴え出ているのだ。
エムケイ(MK・京都市)などのタクシー会社は、近畿運輸局が運賃変更の勧告に続けて、運賃変更命令や車両使用停止処分を出さないように「差し止め」を求める仮の申立てをした。それに対して、大阪地裁は5月23日、申請を認める決定を出した。
これにより当面の間、近畿運輸局は運賃変更命令などの行政処分ができなくなったわけだが、エムケイなどが猛反発している新しい運賃制度とは、どのような仕組みなのだろうか。もし仮にタクシー事業者が新制度に従わなかったら、どうなるのだろうか。行政訴訟にくわしい湯川二朗弁護士に聞いた。
●公定幅運賃が始まったのは「今年4月から」
「今回の事態は、このほど改正された『タクシー適正化・活性化法』によって、生じている問題です。
この法改正により、今年4月から、全国157の『特定地域』(平成24年時点)において、国がタクシー運賃の上限と下限を決める『公定幅運賃』が定められました。
そして、タクシー事業者は、この公定幅運賃の範囲内で、運賃を定めなければならないことになったのです」
もしタクシー事業者が、運賃をその範囲外に設定したら、どうなるのだろうか?
「タクシー事業者が定めた運賃が公定幅運賃の範囲外だった場合、国の通達によると、次のような流れで指導や勧告が行われます。
(1)国は、公定幅運賃に適合するように複数回指導する。
(2)事業者が指導に従わないときは、公定幅運賃に適合するように勧告する。
(3)事業者が勧告に従わないときは、事業者に弁明書の提出を求めた上で、運賃変更命令を出す。
(4)運賃変更命令に従わないときは、タクシー車両の使用停止処分を行う。
そして、3年以内に2度、運賃変更命令に違反した場合には、タクシー営業許可が取消されるということです」
つまり、こうした指導や命令に従わなければ、最終的には商売ができなくなってしまうということだ。
「もっとも、通達では、地域住民や高齢者・障害者の移動手段確保などに『著しい障害が生じるおそれ』があれば、国の定めた基準によらずに行政処分の内容を決めることができるという逃げ道を用意しています。
したがって、もし勧告への風当たりが厳しいようであれば、温情的に処分を軽くしてくることもあり得るとは思います」
ただ、行政の温情に期待して事業を行うのは、事業者にとって、リスクが大きいといえるだろう。
●国による「運賃」の規制方法は妥当なのか?
タクシーの運賃は、国がここまで口を出すべき性質のものなのだろうか。湯川弁護士は次のような見解を述べていた。
「今回の法改正は、タクシーの『サービス向上』『安心利用』を推進するといううたい文句で行われました。
しかし、この目的を達成するために、全国各地でここまでの規制を行うことが合理的といえるのかは疑問です。このご時世に『公定幅運賃』と公言するのは、時代錯誤もはなはだしいですね。
いまのタクシー業界に対して、このような強権的な規制が本当に必要なのか、今後は規制内容の見直し議論も必要になってくると思います」
エムケイなどのタクシー会社は、行政処分の差し止めを求める仮の申立てと並行して、運賃変更命令を出さないように国を訴える正式裁判を起こしている。この裁判の行方に注目が集まる。