関西を拠点とする味噌会社のグループ企業が国(国税当局)から受けた約3億8500万円の課税処分の取り消しを求めた裁判の判決が3月23日、東京地裁(品田幸男裁判長)であった。
品田裁判長は「原告の請求はいずれも理由がない」と結論付け、請求を棄却した。原告側は「不当な判決」として控訴する予定だ。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●原告は「松井味噌」のグループ企業
原告は、京都市にある「京醍醐味噌」。同社は、中国に5工場を構え、中国内で模造品が出るほどの高い知名度を誇る「松井味噌」(兵庫県明石市)のグループ企業だ。
松井味噌は3代目社長の松井健一さん(59)のもと、1990年代から中国・大連に進出。日本より大幅に安い大豆や米、塩などを使い味噌関連製品を作り成功させた。1980年代に約2億円だった年商は、2020年度には約80億円まで成長している。
積極経営を貫く松井さんは2010年代、国内で甘酒・塩糀ブームが起きた際、ベトナムで糀の醸造品を生産し、日本へ輸入するやり方を探った。
保有株を売って事業資金約20億円を確保したほか、ベトナムの工場建設地のメドも付けた。責任者には、加工食品のファブレス事業をグループの1社で成功させていた実弟を立てた。フェブレス事業とは、工場(Fab)を持たない(Less)=生産設備を持たない経営方式だ。
●「高額な役員報酬は妥当」と争った
松井さんはベトナム事業の成功を確信し、弟を専念させるため月2億5000万円の役員報酬を提示した。実際、2015年12月から4カ月で10億円を払った。松井さん自身も2015年10月からの1年間、月5000万円、年間6億円の役員報酬を得た。
国税当局は2018年、京醍醐味噌の税務調査を実施した。その結果、2013年〜2016年の4年間、松井さんと弟に支払われた役員報酬21億5100万円のうち、約18億3956万円分を「不相当に高額」と指摘した。
法人税法は34条2項で、役員給与(退職金含む)のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金に認めないとしている。当局からすると、「役員報酬=損金」が大幅に増えた結果、法人税が激しく減ることを避ける狙いがある。
松井さんらは裁判で、京醍醐味噌は国が課税処分に際して分類した卸売業でなくファブレス事業に該当すると主張。ベトナム事業を有望と判断し、高額な役員報酬を払ったことも妥当とし、国側と全面的に争った。
●東京地裁「企業の意思決定として合理的とはいい難い」
東京地裁は判決で、「反復継続的に仕入れ・販売することによって売上総利益が生じていることからすると、原告の主たる事業は(中略)『卸売業』に該当する」と認定した。
原告側は、京醍醐味噌は「卸売業の機能である調達機能、販売機能、物流・保管機能、金融・危機負担機能、情報提供・サポート機能のいずれも有していない」と主張していた。
これに対して、判決は「金融・危機負担機能については不明」としつつ、他は「機能を有していた」と退けた。
また、ベトナム事業については「収益は生じていない」ことを重要視。弟の「赴任が具体化せず、ベトナム新規事業再開のめどが立っていない状況において月2億5000万円もの給与の支給を(中略)続けるということは、企業の意思決定としておよそ合理的なものとはいい難い」とした。
●原告「日本の経営者にとって悲しい判決だ」
原告代理人の山下清兵衛弁護士は「原告の会社は、利益率が極端に高いファブレスメーカーモデルであり、類似企業を探すのは困難」としたうえで「判決は、原告会社の大きな付加価値を生み出すビジネスモデルをまったく理解しないもので、役員の勤労意欲を阻害し、日本企業の発展を阻止する内容だ」と疑問を呈した。
また、法人税法34条2項についても、「費用性のない役員給与を否認できるだけで、実働している役員の役員給与は否認できない。さらに役員給与の費用は、支払い必要性から合理性が根拠付けられるもの。その必要性は株主が決定するもので、税務署は判定する権限も能力もない」と改めて主張した。
原告の松井さんは、滞在先の中国から以下のコメントを寄せた。
「まったく無関係の他業種の報酬と比較され、驚くしかない。国が職種を決め、報酬の上限を定めることを認めた内容で、日本の経営者にとって悲しい判決だ」