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裁判クラファンで訴訟記録をウェブ公開、被告の都が物言い 「国民の知る権利」で認めるべきか
東京都庁(K@zuTa / PIXTA)

裁判クラファンで訴訟記録をウェブ公開、被告の都が物言い 「国民の知る権利」で認めるべきか

国や自治体などを相手にした「公共訴訟」では近年、裁判費用を集めるクラウドファンディング(CF)が増えている。支援金を募るだけではなく、訴訟資料の公開など、関心を広める試みがセットになっているのが特徴だ。

ただし、訴訟の相手方からすれば、裁判所に提出した書面の公開に抵抗感があるかもしれない。

こうした中、冤罪事件についての賠償を求める訴訟で、被告の東京都が訴訟記録のネット公開に「物言い」をつける事態が発生した。

原告側は「国や自治体を相手にした訴訟の記録公開は、国民の知る権利(憲法21条1項)にも資する」と反論している。(園田昌也)

●冤罪事件の概要

事件の原告は、大川原化工機(横浜市)という企業。2020年に社長を含む関係者3人が、生物兵器に転用可能な機械を不正に輸出したとして逮捕・起訴された。

ところが、問題となった機械が規制の対象外だった可能性が浮上。起訴が取り消され、2021年8月に公訴棄却の決定がなされたが、3人のうち2人は保釈が認められるまで1年近く拘置所に勾留され、もう1人は勾留中に亡くなった。

会社と冤罪被害者3人(うち1人は遺族)は、検察庁・警視庁の捜査が違法だったとして2021年9月、国と都を相手に5億円を超える損害賠償を求める裁判を起こした。

この際、裁判CFの「CALL4」を活用し、2022年12月現在までに100万円以上の支援が集まっている。専用のページには、原告・被告双方が裁判所に提出した書面が30種類以上、掲載されている。

●都「無料で公開するのはルール違反」

東京都から物言いがついたのは、2022年11月11日付の意見書でのこと。

「原告らが本件の訴訟記録をインターネットに掲載して誰でも閲覧・印字できる状態にしている行為は、訴訟記録の閲覧・謄写等について定めた民訴法91条の趣旨を没却するものであることを付言しておく」

民事訴訟の記録は、第三者でも裁判所で申請すれば閲覧できるが、閲覧には手数料がかかる(通常150円)。また、第三者は記録の謄写(コピー)ができない。

大雑把にいえば、全部を電子化してネットで公開するのは、ルール違反だという言い分だ。

●「なんでもかんでもアップロードしているわけじゃない」

この点について、原告側代理人の高田剛弁護士は次のように説明する。

「東京都に対して、警視庁公安部のサーバーに記録されている捜査メモの開示を求めました(文章送付嘱託)。その手続きについての、都側の意見書の中で傍論として触れられたものです。

捜査メモには、検察官に送られる書類だけでなく、雑談ベースの話やセンシティブな内容も含まれます。今回、都は大半を開示したのですが、個人名や内容が一部マスキングされている。CALL4が公開しているからマスキングしました、という弁解として使われたわけです」(高田弁護士)

都の意見書によって、裁判所の訴訟指揮などが変化する可能性は低いとみられる。ただ、記録のウェブ公開を理由に、プライバシーなど必要な範囲を超えて、訴訟記録がマスキングされることを原告側は懸念している。

「一般の民事訴訟はともかく、公共訴訟について、プライバシー等に配慮のうえ、資料を公開することは、法の支配を実現する極めて有意義なことですし、国民の知る権利に資する。

都は皮肉っぽく書いてきましたが、我々がCALL4に訴訟記録をアップロードするときは、プライバシーの観点から人名はマスキングしていますし、内容によってはアップロードしない資料もあります。訴訟記録を開示する意義、必要性と弊害を勘案して判断しているんです」(高田弁護士)

今回、都からは唯一、警視庁と経産省との打ち合わせのメモが開示されなかったという。「冤罪事件で、どういう捜査がされたかという記録が公開されるのには大きな意義がある」として、高田弁護士らは、引き続き開示を求めていくという。

●「むしろ裁判所と国が公開を進めるべき」

CALL4によると、訴訟記録の公開に対する物言いはサービス開始当初から想定していたものの、実際に書面で主張されるのは今回が初めてだという。同年11月24日にはCALL4としての反論をウェブサイトで公表した。

「訴訟記録をインターネットに掲載し誰でも閲覧・印字できる状態にする行為は、民訴法91条の趣旨に反するどころか、その趣旨を実現するものであり、何ら非難される行為ではありません」(CALL4の反論より)

「CALL4副代表の井桁大介弁護士は取材に対し、以下のようにコメントを寄せた。

「そもそも公共訴訟に関しては、プライバシー対応等をした上で行政が自発的に公開すべきですし、さらに本来は裁判所が必要な訴訟資料を公開する対応をするべきです。最近の訴訟資料廃棄の議論でも、公開の話が進められていないことに違和感があります。

公共的な訴訟については、裁判のIT化の一環として、裁判所と国会で音頭をとって、判決のみならず当事者が提出した主張書面や証拠などの訴訟資料についても、電子化して公文書として保存・公開する手続きを立法化して進めることが望ましいと思います」

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