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センチュリー購入は「あまりに検討が不十分」 山口県を「断罪」した異例判決の舞台裏
内山新吾弁護士(提供写真)

センチュリー購入は「あまりに検討が不十分」 山口県を「断罪」した異例判決の舞台裏

公用車として高級車のセンチュリーを購入したのは、違法な支出であるとして、山口県の元職員が県を相手取り、村岡嗣政知事に購入費2090万円を請求するよう求めた住民訴訟。山口地裁(山口格之裁判長)は昨年11月2日、知事に全額請求するよう県に命じる判決を下した。

これまで公用車を私的に利用したなどとして、首長や議員が住民から提訴されるケースはあったが、公用車の購入自体が問われた訴訟はめずらしいという。また、こうした住民訴訟では通常、自治体の裁量権が広く、住民側が敗訴することが少なくない。

ところが、今回は、山口県に対して、「裁量権を逸脱、濫用した財務会計上の違法行為」と断じた。異例といえる判決だ。

なぜ、裁判所はこう判断したのか。判決を読み解きながら、原告代理人である内山新吾弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●センチュリー購入めぐり、原告と山口県は対立

この裁判は、山口県が2020年7月、皇族などが来県したときに利用する貴賓車として2090万円で購入したセンチュリーをめぐって争われた。

判決によると、原告の主な主張はこうだった。

「山口県の財政が逼迫し、職員削減や給与手当の引き下げ、子ども医療助成費の削減がおこなわれる中、必要性のない約2000万円のセンチュリーを貴賓車として購入するのは、違法である。担当の県物品管理課は不十分な検討しかしてない上、知事や県議会によるチェックもされていない」

「他の都道府県では貴賓車にセンチュリーを保有している自治体はわずかである一方、約2000万円という貴賓車の購入価格は全国で2番目に高額である。また、購入したセンチュリーは、実質的に貴賓車ではなく、日常的に県議会議長や副議長が使用することが想定されているため、貴賓車としての『品格』を求める必要はなかった」

これに対して、山口県は違法性を否定し、こう反論していた。

「県では、県議会議長用、副議長用、皇族が来県した際の貴賓車のセンチュリー3台を保有していた。このうちの1台が買い替え時期を迎えたため、2台を処分して1台を買い換えることで、保有台数を減らし、将来的な維持管理費を削減した」

「貴賓車の車種は、山口県の皇室への敬意の表し方、外国人の要人のもてなし、インバウンド招致につなげるなど、政策的な側面が極めて強く、知事の広範な裁量に委ねられている」

●「センチュリーを購入すべき目的があったとは言い難い」

真っ向から対立する原告と山口県。裁判所は山口県側の主張を一蹴した。判決では次のように指摘している。

「(処分した2台のうち)更新基準を満たさないセンチュリーも下取りに出して、新たなセンチュリーを購入したことで、どれだけの費用が削減されたのか定かではない。新たなセンチュリーを購入すべき目的や高い必要性があったとは言い難い」

「山口県では公用車としてセンチュリー以外の車種も使用されており、県が車種選定にあたって考慮したとする品格がセンチュリーによってのみ満たされるとは言えない。

県はすでにセンチュリー1台を保有しており、宮内庁が各都道府県に車種の希望を伝えたことがないことからしても、皇室対応の車両としてセンチュリーであるべき必要がどの程度あるかも明らかでない」

判決では、山口県の2020年度当初の財源不足が276億円にも上り、歳出の見直しがされていたことや、センチュリーの価格が年々上がっていることにも触れ、「山口県として新たな公用車の要否や車種が考慮されてしかるべき状況だった」とした。

そのうえで、次のように結論づけている。

「物品管理課は、センチュリー購入にあたって、他の車種を全く検討せず、センチュリーを購入すべき必要性について、あまりに検討が不十分であったと言わざるを得ない。

したがって、村岡知事の補助職員である物品管理課の課長が、この契約の締結を決定したことは、考慮すべき事情を全く考慮せずになされたものであって、裁量権を逸脱または濫用したものと評価するのが相当。村岡知事は補助職員が違法な契約の締結の決定を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反した過失がある」

●裁判で県が出してきた公文書はたった1枚

「この裁判の相談を原告から受けたとき、原則として、かなり広い裁量が認められる分野でしたので、ハードルは高いと思っていました」

そう振り返るのは内山弁護士だ。しかし、調べていくうちにセンチュリー購入時の過程が見えてきたという。

「提訴前、このセンチュリー購入について、公文書の情報開示請求をしたのですが、ほとんど文書がありませんでした。裁判でも最終的に県が出してきたのはA4の文書3枚で、そのうち2枚は職員の個人的な文書で、公文書ですらありませんでした。

あまりに不自然で、まともな検討がおこなわれていなかったことがうかがわれました。裁判ではこのあたりの視点を主張の中に入れていきました」

原告は元県職員の男性で、長年、県庁で勤めた経験から、センチュリー購入のための公文書が残されているはずだと考えていた。ところが、実際に裁判で県が示した公文書はたった1枚だった。

原告と内山弁護士は、全国の状況も調べた。すると、山口県がセンチュリーを購入した価格は、全国でも突出していることもわかった。

「原告は、県職員時代、県民のために働いてきた方でした。それだけにこの問題に対する疑問は強かったです」

県民の税金がきちんと使われているのか。そこを問いたい思いだった。

●控訴審では知事の「過失」が争点に?

内山弁護士によると、論点は主に2つあった。

「一つは、センチュリー購入の契約自体が、知事の裁量権の逸脱、濫用にあたるのかどうか。もう一つは、知事に過失はあったかどうか、という点でした。

このうち二つ目の論点については、知事は契約について知らなかったという主張が県側から出ていますが、本来、知事はその契約を阻止すべきであったのか、知事はそれが可能であったのか、という点については、必ずしも十分な論戦がされていたわけではありません」

山口県は判決を不服として控訴しているが、控訴審では知事の「過失」について主な争点になる可能性があるという。

「ただ、この争点については、県側は主張も立証もしづらい事情があるように思います。一審では、知事を証人申請したのですが採用されませんでした。

これまで、契約についてどのような意思決定の過程があったのか、県側は詳しい主張をしていません。しかし、この点は知事に過失があるのかに関わる重要な事項ですので、控訴審では県側の反論をみたいと思っています」

あらためて、判決の意義を内山弁護士に尋ねた。

「やはり、本来は自治体の車両購入について、広い裁量権が認められている中、裁量権の逸脱を認めたことは画期的な判決だったと思います。

大きい問題で言えば、税金の使い方と、その使い道の決め方です。判決に書かれているようにあまりに検討が不十分だった場合には、司法によって歯止めがかけられる。そうした意義があったのではないでしょうか」

控訴審の第1回口頭弁論は2023年2月15日に開かれる予定だ。

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