性的マイノリティやそのパートナーたちが結婚を求めている全国5カ所の「結婚の自由をすべての人に」訴訟、いわゆる「同性婚訴訟」の東京地裁判決が11月にあった。これで札幌地裁(2021年3月)、大阪地裁(2022年6月)とあわせて3つの判決が出たことになる。
札幌地裁の判決は、同性同士の結婚を認めていない民法・戸籍法は法の下の平等を定めた憲法14条に「違反する」としたが、大阪地裁の判決は「違反しない」と判断が分かれた。
3カ所目の東京地裁の判決は、同性パートナーと家族になるための法制度が存在しないことは個人の尊厳をうたう憲法24条2項に「違反する」という判断を示した。
2023年5月には名古屋地裁、6月には福岡地裁でそれぞれ判決が言い渡される。弁護団を牽引してきた1人で、東京訴訟弁護団の共同代表である寺原真希子弁護士に、訴訟の現状と展望を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)
●提訴前から変化したマジョリティの意識
2019年2月の一斉提訴(福岡地裁は2019年9月)からまもなく4年。一連の訴訟は、社会的にも注目されるようになった。これまでを振り返り、寺原弁護士はこう話す。
「提訴前は、海外のニュース以外で『同性婚』という言葉が新聞に載ることはほぼありませんでした。2015年に同性パートナーシップ制度が渋谷区と世田谷区で導入されたのをきっかけに、LGBTという言葉が、ようやく一般にも知られるようになったという状況でした。
異性愛中心の日本社会の中で、性的マイノリティの方々は、異性カップルと同じように結婚という基本的な権利(人権)を求めていいということに気付けないほどに、自己肯定感を傷つけられてきました」
全国で提訴されたことをきっかけに、この問題についての認知が広まっていった。「違憲」と判断した札幌地裁の判決の後押しもあり、支援を表明する人や団体も増えているという。
「提訴後、数年をかけて、少しずつですが確実に状況が変わってきていることを実感しています。
たとえば、最初のころは、『婚姻の平等』への賛同を国内企業にお願いしても、『政治的なことだから』と敬遠されることがありました。けれども、『企業の社会的責任として賛成すべき』という考えが徐々に浸透し、今では、企業の方から私たちにコンタクトをとってきてくれるということも増えています」
●性的マジョリティも国側の「反論」に疑問
社会の意識が変わっていった一因は、原告となった当事者が、自分たちの人生や置かれている状況について、勇気を出して訴えてきたことにあると、寺原弁護士は言う。
「婚姻が認められないことによって、原告たちがどんなに辛い思いをし、苦しんできたか。具体的な思いやエピソードが法廷で次々と語られていきました。
また、全国各地の裁判所で提訴したことにより、性的マイノリティが『見える存在』になったことも大きいと思います。自殺を考えるほどに生き悩んでいる人たちが身近にいるという事実が、マジョリティの意識を変えるきっかけの一つになったはずです」
一方で、国がなぜ同性婚を認めないのか、その具体的な理由も、提訴したことで初めて明らかになったという。
「国会では、『家族の根幹に関わるので慎重な検討が必要だ』などという抽象的な答弁だけが繰り返される状況でした。裁判をしたことで、国は、『婚姻制度の目的は二人の間の子を産み育てる関係(自然生殖関係)を保護することにあるから、同性カップルが婚姻できないことには合理性がある』と主張し、同性間の婚姻を認めない具体的な理由を初めて明らかにしたのです。
これは、『子どものいない異性カップルも、本来は婚姻制度で保護されるべき存在ではない』と言っているのと同じであり、とても差別的な考え方です。
これについては性的マジョリティからも疑問の声が上がっており、この訴訟では、婚姻制度の存在意義自体が問われているといえます」
●裁判官の良心に従った判断を期待
2023年は名古屋地裁、福岡地裁の判決が予定されているほか、東京の原告らは2022年12月13日に東京高裁に控訴した。札幌高裁と大阪高裁でも控訴審がすすめられている。
「大阪地裁の判決は残念でしたが、各地の裁判所での主張や審理の積み重ねが、ほかの地域の裁判に与える影響は大きいと考えています。札幌地裁に続けて東京地裁も『違憲』と明言したのですから、他の地裁や今後の高裁での審理は、そのことを十分に踏まえて、おこなわれる必要があります」
この訴訟は、多くの人たちに支えられてきた。
たとえば、寺原弁護士が代表理事をつとめる公益社団法人「Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」。さまざまな情報発信をしたり、イベントをおこなうなどして、社会にこの問題に対する理解を呼びかけてきた。
裁判と裁判外のいずれでも無償で奔走する寺原弁護士に、何に背中を押されているのか聞いてみた。
「そうですね。私の中にある最も強い感情は、『怒り』です。
憲法は、個々人の生き方や家族の形に優劣をつけることを許しません。それなのに、国は、婚姻という法制度から性的マイノリティを排除することで、彼らに対する差別・偏見を助長すらしています。
本来は国民を守るべき立場にある国が漫然と差別を続けていることには強い怒りを感じますが、私は、少数者の人権の砦と言われる司法の力を諦めたくないと思っています。裁判官には、憲法と良心に従って、自らに恥じない判断をしていただきたいと思います」