大分県で剣道部の高校生が2009年に熱中症で倒れて亡くなった事故の裁判記録が廃棄されていたことを受け、遺族が12月13日、最高裁に原因究明などを求める意見書を提出した。今回廃棄が明らかになったのは、倒れた後に暴行した顧問の対応など県立竹田高校側の責任を問うた国賠訴訟の一審記録で、永久に保存される「特別保存」に指定されていた。
当時17歳だった工藤剣太さんの父・英士さんは「一審の記録は息子が亡くなった直後に苦しい思いをしながら、部員や各家を回って聞き取った証言が含まれています。地道に積み重ねた苦労の結晶で、剣太の命そのものが廃棄された。学校で、裁判の過程で、そして今回の廃棄で3度殺されたのです」と語った。
母親の奈美さんも「つらい裁判だったけど、誰かが声を上げなければと闘ってきました。同じようなことが起きてはならないと今後のために頑張ってきたことが紙切れ同然に廃棄された」と悔しさをにじませた。
●一人のミスではないはず
裁判記録の廃棄をめぐっては今年10月、神戸連続児童殺傷事件など重要な少年事件の記録が廃棄されていたことが報じられ、最高裁が調査を開始。工藤さんの記録についても捨てられていたことが分かった。最高裁では現在、経緯を調査する有識者委員会で議論している。
地方公務員だったという英士さんは、今回の手続きについて疑問を呈する。
「行政では個人での決定権はなく、なんでも決裁が必要です。裁判所は厳格で正しく、過ちがあってならない場所。まして最高裁の特別保存ともなれば、一個人で判断することは到底できず、多くの人の手にわたって印がつかれていると思います」
工藤さんを支援し、会見に同席した日本大危機管理学部の鈴木秀洋准教授も「当事者で保管しているといっても、調書類がすべてあるわけではない。事務のミスでは許されない。その人が怠慢だったで済ませるのではなく、組織のあり方を問うていく必要がある」と徹底的な原因究明とともに、廃棄された記録の復元を望んだ。
●他の当事者も声を上げてほしい
工藤さんの事故をめぐる裁判は最高裁まで闘った国賠訴訟に加え、賠償金を顧問に負担させるべきだとする求償権訴訟もあり、福岡高裁で確定している。部活動での指導の責任を追及した事例で、工藤さんらは一連の訴訟記録も廃棄されていないか調査を要望している。
「数々の証拠に基づいて、教員の重過失があると認め、個人の責任の追及までした判決」(鈴木准教授)といい、工藤さん夫妻を突き動かしたのは、学校内での悲劇を二度と起こしてはならないとの強い思いだった。
英士さんは強調する。「判決文があればよいというわけではないんです。判決に至るまで、どのような経緯や証拠があったか、どのような立場の人間が、いかなる言動や行動をしたか。背景を探すことができなくなるということです」
奈美さんは、裁判記録が廃棄されたと分かった事件の他の当事者に対しても呼びかける。
「声を上げなければ変わらないことがあります。また先鋒になりました。やっても無駄と諦めずに、声を上げていただきたいです」