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「子どものことを忘れていた」父親のうっかりで起きた車内熱中症死、繰り返される悲劇
写真はイメージです(heisj / PIXTA)

「子どものことを忘れていた」父親のうっかりで起きた車内熱中症死、繰り返される悲劇

暑い日に親が子どもを車内に放置したために、車内で死なせてしまう事故が、毎年後を絶たない。中には、パチンコ屋の駐車場に停めていたなどの典型的ケースではなく、父親が子どものことを忘れてしまっていたという事例もある。

今年5月25日には、新潟市中央区で1歳5カ月の男の子が、長時間車内に放置され、熱中症で死亡する事故が発生した。報道によると、父親は、勤務先の駐車場に停めた車に息子を乗せたまま、およそ3時間車から離れていた。息子を保育園へ送るために車に乗せたが、「保育園に連れて行くのを忘れた」と話していたという。

車のエンジンはつけていなかったが、この日の新潟市中央区の最高気温は27℃だったそうだ。

●「仕事のことを考えていて忘れた」「相手が送ると思っていた」

同じような事例は、何度も起きている。過去の報道をみてみたい。

2020年6月17日、茨城県つくば市で、2歳の女児が長時間車内に放置された末に死亡した。会社員の父親は、普段から長女を小学校へ、次女を保育園へ送り迎えし、自身は4月から在宅勤務をしていた。

事件が起こった日、父親は長女を学校に送ったものの、次女を預け忘れて帰宅し、そのまま在宅勤務していた。最高気温27.8℃と7月中旬並みの暑さの中、次女を車内に約7時間放置してしまった。父親は「仕事のことを考えていて送るのを忘れた。その後、預けたつもりになっていた」と話していたそうだ。

2013年3月15日には、埼玉県小川町の駐車場に止められた車の中で、2歳の男児と1歳の女児がぐったりしているのを母親が発見し、午後3時ごろに119番通報したものの、2人は搬送先の病院で死亡した。

両親は2人の子供を保育園に送ろうと車に乗せたが、互いに「相手が送るだろう」と勘違いし、その結果子どもたちは約5時間半、車内に放置されてしまった。午後4時ごろの車内の温度は約36℃となっていたという。

●どんな場合に重過失致死傷の罪に問われるのか?

今年5月25日の事故においては、父親は重過失致死傷の疑いがあると報じられた。重過失致死傷の罪に問われるかどうかのポイントはなんなのか、伊藤諭弁護士に聞いた。

「大変痛ましい事故で、暑い車内に閉じ込められて亡くなった子たちのつらさを思うと言葉が見つかりません。

重過失致死罪とは、重大な不注意(注意義務違反)によって人を死なせてしまう犯罪です。

注意義務違反とは、結果を予見する義務と結果を回避する義務と言われています。

今回のケースで言えば、子供をエンジンが止まった車内に放置すれば車内の温度が上昇し、熱中症などによって死に至ってしまうかもしれないということを予想して、それを回避させなければならないのに、そうしなかったことによって結果(死)が生じてしまったというものです。

重大な結果が生じてしまった以上、責任は免れないと思いますが、不注意による事故は誰にとっても他人事ではありません。今回の父親も、子供を預け忘れるという自分の行動が信じられないのではないのでしょうか。

私も、幸いにして重大な結果にまで至っていませんが、思い返してみればあれは危なかったなあと思うことは1つや2つではありません。

人はミスをするものです。こうした過失による犯罪を処罰しても、犯罪の予防や抑止効果には限界があります。

安全に関する科学技術の発展は、『人はミスをする』という前提に立って進んできた面があり、事故が起こっても重大な結果にならないようにしたり、そもそも事故が発生しないようにしたりという工夫が機械の側でされている場面も少なくありません。

今回のような不幸な事故がおきないような仕組み作りが望まれます」

プロフィール

伊藤 諭
伊藤 諭(いとう さとし)弁護士 弁護士法人ASK川崎
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。中小企業に関する法律相談、弁護士等の懲戒請求やトラブル対応などを手がける。第一法規「懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得」著者。

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