やっぱり「OMECO」は卑わいなのか? OMEGAパロディーの商標が認められなかったワケ
登録取り消しとされた「OMECO」商標登録証

やっぱり「OMECO」は卑わいなのか? OMEGAパロディーの商標が認められなかったワケ

スイスの高級時計ブランド「OMEGA(オメガ)」のパロディー時計「OMECO(オメコ)」の商標が有効か無効か争われた裁判で、知財高裁は5月25日、OMECO側の主張を退けた。

しかし、判決文を読んだ知的財産権にくわしい弁護士は、知財高裁が重要な判断を避け、OMECO商標とまっすぐ向き合わなかったことに「失望した」と語る。(編集部・塚田賢慎)

●これまでの経緯

OMECO社(東京都台東区)はアルファベットの「OMECO」ロゴ商標を2020年8月に登録。それを不服とするOMEGA社からの登録異議申し立てを受けて、特許庁が商標登録の取り消しを決定。

特許庁は商標法にもとづく「広義の出所の混同防止」(4条1項15号)と「公序良俗違反の防止」(同7号)について、ともに違反を認めて、登録取消を決めた。

OMECO社が特許庁の取り消し決定の取り消しをもとめて裁判を起こしたが、知財高裁はそれを棄却した。

詳しくは前回記事「『OMEGA』パロディー時計『OMECO』 商標登録はなぜ取り消されたのか」を参照

今回の知財高裁の判決について、岩永利彦弁護士に聞いた。

●知財高裁は「OMEGAとOMECOの混同」について判断しなかった

——知財高裁は2つの争点についてどのように判断しましたか

「公序良俗違反の防止」(7号)だけ判断されていますが、「広義の出所の混同防止」(15号)の判断はされていません。今回の判決では、下記のように判示されています。個人的には予想通りでした。

〈本件商標は、その呼称から、少なくとも需要者に女性器を連想、想起させるものであるから、その構成自体が卑猥又は他人に不快な印象を与えるようなものであって、その余の点について検討するまでもなく、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。したがって、本件商標は、商標法4条1項7号に該当するものであり、商標登録を受けることができない〉

実は、知財高裁の実質的判断と言えるのはこれだけで、判断の理由はなきに等しいのです。

「『オメコ』という称呼(読み方)なんだから、皆まで言わなくてもわかるだろ!全部言わせんな恥ずかしい」

その程度のロジックなのです。15号の判断をスルーした表向きの理由は、7号の判断だけで十分と考えたからでしょう。しかし、裏の理由としては、やはり、仮に15号違反が成立するのであれば、「OMEGA」と「OMECO」が似ているという、かなり常識外れのことにもなりますから、保守的な裁判官らとしては15号の判断自体を避けたかったのでしょう。

——15号違反が判断されなかったということは、OMEGAとOMECOは「混同」されないということになりますか

裁判所の判断がなかったのですから、形式的には「混同」するともしないとも言えないということになってしまいます。わからないとしか言いようがありません。

しかし、先述の説明の通り、知財高裁は、理由なくスルーしたわけではありませんので、実質的には、OMEGAとOMECOは「混同」しないと判断してよいと思います。

——OMECO商標を使った時計は販売できなくなるのでしょうか

そうはなりません。今回の判断は、単に商標登録が取り消しになっただけで、OMECO商標を使ってはいけないと言われたわけではないからです。

また、上記の通り、実質的にOMEGAとOMECOは「混同」しないとなれば、OMEGA社もOMECO商標を使ってはいけないなどと主張できないと思います。

●卑わいの判断が飛躍している。判決に「失望」の理由

——岩永弁護士はコメントの冒頭で「予想通りの判決」と話していましたが、どういうことでしょう

予想通りというのは「15号の判断はしなかった」「7号の判断には実質的な理由がなかった」という2点です。前者は致し方ないと思いますが、後者については大変失望しました。

というのは、なぜ女性器を連想・想起させることが「卑わいだ」と論理必然的に言えるのかという説明がまったくなかったからです。

女性器自体は、身体の器官ですし、人類が子孫を残すためには非常に重要なものですから、それ自体に本来、卑わいの意味はないはずです。

加えて本件は、女性器自体を立体商標等として商標登録出願したものでもありません。この点において、いわゆる『ろくでなし子事件』〈最高裁平成29(あ)829号(令和2年7月16日判決)〉とは事案が異なります。

そうすると、どうして女性器を連想・想起させる言葉に過ぎないのに、それが卑わい等と即判断できるのか、きちんとした説明がないといけないはずです。知財高裁は、論理が飛躍しているのです。

●年配男性特有の道徳観で判決するのなら法的判断とは言えない

——どうして論理飛躍してしまったんでしょうか

では、ここで本件の裁判の合議体を見てみます。菅野雅之裁判長をはじめ、3人の合議体は全員男性(しかも年配の)なのです。

つまり、本件の判決は「『オメコ』にはいやらしい意味があるだろ、皆そう思うだろ、俺達は恥ずかしがり屋だからはっきりとは言わないけどな、だからそんなものを商標登録していいのか!ダメだろう」という、男性(しかも年配の)特有の道徳観がそのまま反映されているだけなのです。

法は道徳ではありません。道徳で判決するのであれば、法的判断とはとても言えないと思います。

前回の記事では、最近のアメリカの連邦最高裁判所の判決のことに言及しました。

「fuct(fuckの過去形の当て字)」という商標が「不道徳」商標だとして米国特許商標庁から拒絶されたのですが、連邦最高裁は拒絶理由の「不道徳」条項について「viewpoint(物の見方、観点)」に基づく「discriminate(差別)」であって、違憲だと判断しました。

そうであれば、今回の件は、年配の男性の道徳観(物の見方、観点)に基づく差別(登録取り消し)にほかなりませんので、アメリカの連邦最高裁判所であれば、確実に違憲無効となるものと思います。

プロフィール

岩永 利彦
岩永 利彦(いわなが としひこ)弁護士 岩永総合法律事務所
ネット等のIT系・ソフトウエアやモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー 増補版」及び「エンジニア・知財担当者のための 特許の取り方・守り方・活かし方 (Business Law Handbook)」好評発売中。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライターと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする