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 小5女児の死亡事故、赤信号無視した男性に懲役6年6月…東京地裁 父は「娘に申し訳ない」
波多野暁生さん(中央)(2022年3月22日、弁護士ドットコム撮影、東京都)

小5女児の死亡事故、赤信号無視した男性に懲役6年6月…東京地裁 父は「娘に申し訳ない」

東京都葛飾区で2020年3月、横断歩道を渡っていた小学5年の波多野耀子さん(当時11歳)と父親がはねられ死傷した事故で、赤信号を無視して軽ワゴン車で交差点に進入したなどとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪に問われた被告人の男性に対し、東京地裁(西野吾一裁判長)は3月22日、懲役6年6月(求刑懲役7年6月)を言い渡した。

判決後、耀子さんの父、暁生さんは会見で「危険運転致死傷罪になってよかったねとは言えない。娘に対して、申し訳ない気持ちが再び湧き上がってきています」と悔しさを滲ませて語った。

●「赤信号に気づいた位置」が争点に

事故は2020年3月に起きた。耀子さんと暁生さんが青信号の横断歩道を横断していたところ、赤信号にもかかわらず交差点に進入してきた軽ワゴン車にはねられ、耀子さんは死亡、暁生さんも重傷を負った。

警察は、軽ワゴン車を運転していた男性を過失運転の疑いで逮捕。その後、東京地検は、赤信号を「殊更無視」(およそ赤色信号に従う意思のないもの)し、時速57キロで交差点に進入したとして「危険運転致死傷罪」で起訴した。

裁判では、危険運転致死傷罪の要件である「赤信号の殊更無視」をめぐり、男性が赤信号に気づいた位置の認定が争点となった。被害者参加代理人の高橋正人弁護士によれば、赤信号に気づいた位置が信号機に近い場所であれば、基本的に「殊更無視」したことを否定する方向に働くという。

検察側は、男性は停止線の手前から約28メートルの地点で赤信号に気づいたと主張。一方、男性側は停止線の手前から約12メートルだったと主張し争っていた。

高橋弁護士は、判決後に開かれた会見で、今回の事故のように、加害者側がほぼ制限速度どおりで走行し、飲酒していたなどの事情もなく、純粋に赤信号の殊更無視だけで危険運転致死傷罪が問われたケースは「そうそうない」としたうえで、次のように話した。

「争点をクリアできた最大の理由は、実況見分の信用性でした。事故発生直後におこなった警察の実況見分と、事故から1年半後に弁護人側がおこなった実況見分、どちらが信用できるのか。前者であると当たり前の判断をしてくれました。これがポイントだったのではないかと思います」(高橋弁護士)

●「娘に『よかったね』とは報告できない」

自身も事故で重傷を負った暁生さんは、被害者参加制度を利用して法廷にも立った。会見で参加したことを問われ、「(被告人と)直接対峙できるというのは意義がある」と語った。

「裁判自体初めての経験で、流れも何もわからないままでしたが、娘のためにやれるだけのことはやりきりたいとの思いで参加しました」(暁生さん)

被告人に対しては、「公判中の被告人の様子をみても、とてもまともに話が通じる相手ではないなと思った」とし、どのように償ってほしいかなどは現時点考えられないという。

懲役6年6月という判決が出た後の耀子さんへの思いとして、「よかったねとは言えない」とやりきれない気持ちを吐露した。

「(判決が確定すれば男性が)刑務所に入るよということも、喜ばしいこととしては報告できません。なぜこんな事件で殺されてしまったのかという申し訳ない気持ちが、また再び湧き上がってきています」(暁生さん)

暁生さんは、ドライバーが信号を守るというのは「基本中の基本」で、そのルールを破れば重い罰が待っているはずだが、「過失」に留まったり、軽い罰になるおそれがあることを実感したという。

「今回の事故を通して、『信号を守る』ということをあらためて基本ルールとして徹底しなければいけないことなのだと再認識していただけるきっかけにしていただければと思います」(暁生さん)

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