子どもを保育所に預けたくても、定員オーバーで入れることができない――。厚生労働省によると、認可保育所に入れなかった「待機児童」は2013年10月時点で、全国に約4万4118人。3年連続で減少したが、まだ解決にはほど遠い。
親たちが保育所を選ぶ際にも、「どの保育所が良いか」と探す前に「どこなら入れるか」と考えるしかない状況だという。今年2月には、待機児童の多い東京都杉並区と中野区で、子どもを認可保育園へ入所させられなかった親たちが、区に対して数十人規模の集団異議申し立てをおこなった。
2015年度に始まる「子ども・子育て支援新制度」についても、預けられる要件がゆるやかになったとして評価する声があるが、どんな運用になるかは結局のところ各自治体しだいだ、という指摘もある。市や区などの自治体は「待機児童の解消」について、法的な責任を負っていないのだろうか。待機児童の問題に取り組む大井琢弁護士に聞いた。
●児童福祉法では「待機児童」はないのが原則だが・・・
「共働き夫婦の家庭など『保育に欠ける』子どもについては、原則として市区町村が、認可保育園において保育をしなければならないとされています(児童福祉法24条1項)。それにもかかわらず、待機児童がなくならないのは、市区町村が『例外』を言い訳にしているからです」
その例外とは、児童福祉法の24条1項ただし書きのことだ。そこには、こう書かれている。「ただし、保育に対する需要の増大、児童の数の減少等やむを得ない事由があるときは、家庭的保育事業による保育を行うことその他の適切な保護をしなければならない」。
つまり、多くの自治体は「やむを得ない事由がある」と言い訳しているというのだ。
「そのような言い訳を許さないためには、杉並区や中野区の保護者の方々のように、異議申し立てという形で、行政に対して声を上げる必要があります。私も昨年と今年、杉並区の保護者の方々の異議申し立てのサポートをおこなっています」
●憲法14条の「平等原則」に違反する可能性も
現実には、保育所に「入所できた児童」と「入所できなかった待機児童」という差が生じている。はたして、それは「平等」と言えるのかと、大井弁護士は指摘する。
「認可保育園に入所できるかどうかは、保護者にとっても、子ども自身にとっても切実な問題です。
しかし、待機児童が多い市区町村では、認可保育所に入所できるかどうかは紙一重です。『なぜ、うちの子どもが入れないの?』という疑問を持つ保護者もたくさんいらっしゃるはずです」
こちらも、「やむを得ない場合」には、公正な方法で選考できるという記載が条文にはあるが・・・。
「それでも、認可保育園に入所できる子どもと、入所不承諾となって待機児童となる子どもが生じているのは、『差別的な取扱い』といえます。自治体がそのような措置をとる合理的理由がないとすれば、『法の下の平等』を定めた憲法14条1項の平等原則にも違反することになります」
ルールの趣旨を考えれば、いつまでも「やむを得ない」として、現状を是認するわけにはいかなさそうだ。大井弁護士は「2015年度から始まる新しい制度でも、こうした問題点が解消されるわけではありません」として、今後もいろいろな方法で行政を動かしていく必要があるだろうと話していた。