弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事・その他
  3. 埼玉公立小教員の残業代請求訴訟、請求棄却 裁判長「給特法はもはや教育現場の実情に適合していない」
埼玉公立小教員の残業代請求訴訟、請求棄却 裁判長「給特法はもはや教育現場の実情に適合していない」
さいたま地方裁判所(MORIKAZU / PIXTA)

埼玉公立小教員の残業代請求訴訟、請求棄却 裁判長「給特法はもはや教育現場の実情に適合していない」

教員の時間外労働に残業代が支払われていないのは違法だとして、埼玉県内の市立小学校の男性教員(62)が、県に約242万円の未払い賃金の支払いを求めた訴訟で、さいたま地裁(石垣陽介裁判長)は10月1日、原告側の請求を棄却した。

石垣裁判長は判決で「多くの教員が一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にあり、給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず、原告が訴訟を通じて、この問題を社会に提議したことは意義があるものと考える」と付言しました。

●裁判所の判断は?

1972年に施行された「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)により、公立学校の教員には時間外勤務手当と休日勤務手当が支払われないことになっている。その代わり、基本給の4%に当たる「教職調整額」が支給されている。

「原則として時間外勤務を命じない」ことになっているが、正規の時間を超えて勤務させることができるのは、(1)生徒の実習(2)学校行事(3)職員会議(4)災害など緊急事態からなる「超勤4項目」に限るとされている。

判決は、まず、教員の職務の特殊性について言及した。例えば授業準備や教材研究、児童や保護者への対応などについて、「個々の教員が自主的自律的に判断して遂行することが求められている」と指摘。

こうした業務と校長の指揮命令に基づく業務とが「日常的に渾然一体となって行われているため、これを正確に峻別することは困難」とし、「指揮命令に基づく業務に従事した時間だけを特定して厳密に時間管理し、それに応じた給与を支給することは現行制度下では事実上不可能」と述べ、定量的な時間管理を前提とした割増賃金程度はなじまないとした。

原告側の「超勤4項目」以外の時間外労働をした場合は、労働基準法37条に基づく割増賃金を支払う必要があるという主張については、「給特法が、超勤4項目以外の業務にかかる時間外勤務について、教職調整額のほかに労基法37条に基づく時間外割増賃金の発生を予定していると解することはできない」と却下した。

●時間外労働は違法か?

次に、校長が労基法32条の規制を超えて男性に時間外労働させたことが、国家賠償法上違法であるかどうかについて検討した。

まず、給特法は労基法32条の適用を除外していないので、教員についても労基法32条の規制が及ぶとした。

ただ、給特法が教員の労働時間を定量的に管理することを前提としていないことや、校長が、校長の指揮命令に基づいて教員が働いた労働時間を的確に把握できる方法もないことから、「仮に労基法32条の定める法定労働時間を超えていたとしても、それだけで国賠法上の違法性があるということはできない」とした。

一方、常に国賠法上違法にならないとすることは、給特法の無定量な時間外労働を防止し、教員の超過勤務を抑制するという趣旨に反することにもなりかねないと指摘した。

その上で、「校長の職務命令に基づく業務時間が日常的に長時間にわたり、時間外勤務をしなければ事務処理ができない状況が常態化しているなど、給特法の趣旨を没却するような事情が認められる場合には、校長は違反状態を解消するために、業務量の調整などの措置をとるべき注意義務がある」とし、こうした措置を取らずに法定労働時間を超えて教員を労働させ続けた場合には、国賠法上違法になると整理した。

こうした判断基準に基づき、男性の勤務状況を検討した。

男性は2017年9月から18年7月までのうち、6カ月の勤務は法定労働時間内にとどまっていること、法定労働時間を超えた5カ月も約2時間〜14時間で、いずれもいわゆる繁忙期にあたるなどの事情から、「校長の職務命令に基づく業務時間が日常的に長時間にわたり、時間外勤務をしなければ事務処理ができない状況が常態化しているなど、給特法の趣旨を没却するような事情」があるとは言えないとし、原告側の主張を棄却した。

●「勤務環境の改善が図られることを切に望む」

石垣裁判長は最後に「多くの教員が、学校長の職務命令などから一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にあり、給料月額4%の割合による教職調整額の支給を定めた給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず、原告が訴訟を通じて、この問題を社会に提議したことは意義があるものと考える」と述べた。

また、「わが国の将来を担う児童生徒の教育を今一層充実したものとするためにも、現場の教員の意見に真摯に耳を傾け、働き方改革による教員の業務の削減を行い、勤務実態に即した適正給与の支給のために、勤務時間の管理システムの整備や給特法を含めた給与体系の見直しなどを早急に進め、教育現場の勤務環境の改善が図られることを切に望む」とした。

●判決文全文はこちら

判決文は、男性の訴訟を支援するクラウドファンディングサービス「CALL4」がHPで公開している。(https://www.call4.jp/file/pdf/202110/678384c33434330ec38d7c82a13c81bf.pdf

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする