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2021年08月21日 09時49分

「発達障害が治るまで出社しないで」無理解上司の命令…自身も当事者の弁護士が語る「職場の実態」

塚田賢慎 塚田賢慎
「発達障害が治るまで出社しないで」無理解上司の命令…自身も当事者の弁護士が語る「職場の実態」
伊藤克之弁護士(本人提供)

発達障害の弁護士のもとに、毎週火曜日、同じ生きづらさを抱える人たちが足を運んでいる。

ASD(自閉症スペクトラム症候群=発達障害の一種)と診断された伊藤克之弁護士は、同じ困難を抱える人の悩みを解決するため、2018年に発達障害の専門相談室を作った。

障害を原因とした「働く悩み」には、会社側に障害への理解が足りないケースも多い。しかし、当事者にトラブルの原因を見出すこともあるという。

伊藤弁護士が耳を傾けてきた「発達障害の労働問題」を聞いた。(ニュース編集部・塚田賢慎)

●「あなたは障害者に見えない」と言われてしまう

——発達障害の人からの労働相談にはどのようなものがありますか?

健常者の人と同じく、たとえば雇い止めや解雇についての相談があります。しかし、その原因のほとんどは、障害者雇用促進法にもとづいて企業に義務付けられている合理的配慮の提供が得られないことにあります。

適切な配慮を受けられないことで、ときには二次障害の抑うつ症状となり、休職に至る場合が目立ちます。復職しても、職場にいづらくなって、雇い止めや解雇につながるケースが少なくありません。

しかし、会社側に問題があるのか、相談者本人にも問題があるのか、よく聞いて判断する必要があります。

——会社側の問題とは?

障害への理解や知識が不十分である場合があります。

例えば、障害者雇用で入社した人が、「あなたは障害者に見えない」と言われてしまうことがあります。

発達障害が「見えない障害」であり、「調子の波」があることも理解してもらえないわけです。

発達障害は「特性」なので、病気のように治るものではありません。しかし、診断名のついた社員が「治るまで出社しないで」などと命じられるようなこともありました。

雇用後に障害が判明しても、会社には合理的配慮の義務があります。

このようなケースは、障害者雇用促進法に違反する可能性があります。ジョブコーチ(職場適応援助者)や医師を通じて、修正の対応を会社にはたらきかけることもできます。それでも会社側が非を認めない場合には、裁判で是正してもらうこともあります。

●「自分は絶対に間違っていない」と反発すれば、職場で孤立してしまう

——会社ではなく、本人にトラブルの原因がある場合は?

自身の障害特性を理解できていないと、トラブルになりやすいです。

自分自身で特性を理解したら、自分の「取扱説明書」を作成して、適切な配慮を求められます。職場の全員に伝えなくても、直属の上司に適切な配慮を求め、理解してもらえれば、上司を通じて働きやすい環境ができることでしょう。

しかし、自分が理解できていなければ、そのような環境を作ってもらうことも難しいわけです。

——本人の理解が足りずに起きるトラブルとは?

たとえば「こだわりの強さ」が影響します。

「自分がミスをするはずがない」と思い込んだり、自分なりの仕事の進め方に固執したりすると、トラブルに陥りがちです。

本当はミスの原因が自分にあるのに、全く認められないため、上司からの修正指示を「嫌がらせ」や「パワハラ」と受け止めてしまいがちです。

ある企業の窓口で働く相談者のケースを紹介すると、このかたは人の顔をジッと見てしまう癖がありました。そのため、役所には「凝視された」との苦情が届きましたが、本人としては「あたたかく見守っていただけなのに、何が悪いのか理解できない」と受け入れられないようでした。

「自分は絶対に間違っていない」と反発すれば、職場で孤立してしまいます。ジョブコーチが適切な方向に修正できればいいのですが、必ずしも当事者が受け入れてくれるとは限りません。

——解決への導きは?

どういった配慮が必要かを明確にして、ジョブコーチを通じて会社に伝えてみてはどうかとアドバイスしています。

離職率の高さが課題なので、ジョブコーチのように労働者側と会社側の言い分を調整する役回りが重視されていくでしょうし、キャリアカウンセラーや精神保健福祉士からのアドバイスを求めるとよいでしょう。

依頼にくる障害者の希望は職場復帰、金銭的解決、謝罪の申し入れなど様々です。裁判になる前の紛争解決も重要ですし、弁護士が出ていくと会社も身構えるので、適切なタイミングを見計らいます。

なお、紛争解決のために労働組合を頼る発達障害者もいますが、組合にも理解が足りていないケースがまだあります。

気分が安定しないことから、支援を受けている際に、激しい言葉を使ってしまう発達障害の人もいます。そのような状況にもかかわらず、「あなたよりもっと苦労している人がいるんだよ」など配慮に欠ける言動をしてしまう組合関係者もいました。

●「発達障害弁護士」として、理解を得られず苦労されている人の力に

——発達障害と診断された経緯は?

法律事務所で5年働くなか、過労とプライベートの悩みから抑うつ状態となり休業しました。復職はできましたが、心療内科に通ってもよくならず、主治医からすすめられて受けた検査で2016年にASD(広範性発達障害)と診断されました。

私には「こだわりが強い」「コミュニケーションが苦手」などの障害特性があります。それがわかって自分を悩ませていたものの正体がわかり、視界がパッとひらいた気がしました。

——発達障害は弁護士業務にどのように影響するのか?

表情から相手の気持ちを汲み取りにくいため、依頼者の打ち合わせは多少やりにくさがあります。

ただ、「過集中」という特性もあり、文章を書くうえでは大きなプラスになります。

カミングアウトすれば、仕事の一部を失うかもしれないと思って、迷いもありました。しかし、結果は心配したほどではありません。

おそらく、発達障害当事者の弁護士は私だけではないでしょう。自覚していない弁護士も多いのではないかと思います。

発達障害の問題解決のため、チームを組んでいけば、もっとやりやすくなることでしょう。

発達障害に関する労働分野でのトラブルは増加していると感じていますが、弁護士までたどりつけないのが実情のようです。

目に見えない障害のため、理解を得られずに苦労されている人の力になりたいと思っています。法的トラブルに関して、司法との通訳になるという役割を務めたいです。

また、発達障害には得意なものと苦手なものの凹凸があるものです。ですから、企業には、欠点だけを見るのではなく、優秀な特性を伸ばして活用してほしいと考えています。それは必ず、企業への社会的評価にも結びつくはずです。

取材協力弁護士

伊藤 克之弁護士
発達障害の特性を持つ弁護士として同じ障害、同じ生きづらさに苦しむ当事者の力になるべく奮闘中。一方で、発達障害のパートナーや家族等の対応に悩まされて「カサンドラ症候群」になった人のサポートにも注力している。

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